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韓国がファブレスと半導体技術者育成に注力し始めた、日本はどうする?

日本や欧米でTSMCはじめファウンドリの工場誘致のうわさが出るたびに、TSMCは常に「ファブ建設場所の選択に関しては、顧客のニーズを含む多くの要因を考慮する必要がある。TSMCは全ての可能性を排除はしないが、現時点では具体的な計画はない」と紋切型の答えを繰り返してきた。

しかし、結局は、大口顧客の最も多い米国と中国に新しい工場建設投資をすることを決めた(注1)。TSMCの売上高のうち欧州のシェアは6%、日本は4%しかなく、将来にわたりこれらの地域の半導体需要は増える見込みがないため、経済合理性の見地から海外新工場建設地としてこれらの地域を避けて米中を選ぶのは当然だろう。なぜファウンドリにとって日本は進出するに足る魅力ある国ではないのだろうか?

電機メーカーは半導体製造とも消費とも縁遠くなってしまった

半導体の大口ユーザーだった電機メーカーの多くが、次々と国際競争力を失ったスマートフォンを含む家電製品やボラティリティの高い半導体から安定なインフラ事業に軸足を移して、さらにはソフトウエアベースのサービス事業へ次々転換しており、半導体はもはや無用とばかりに売却(あるいは譲渡や廃止)されてしまった(参考資料1)。

半導体を大量に使う最終製品メーカー(大口顧客)が国内にいなくても、世界中で大量に売れる魅力あるASSP(特殊用途標準半導体チップ)を企画・設計できるファブレスが多数あれば、ファウンドリは誘致に応じるだろう。

世界ファブレス・IC設計会社の地域・国別シェアのトップは、Qualcomm、Broadcom、Nvidiaはじめ多数の有力ファブレスを抱える米国(64%)である。次いで、TSMCやUMCなどのファウンドリの強さに目を奪われがちな台湾が、ファブレス分野も強くて、18%で2位である。MediaTek は台湾最大の急成長ファブレスである。3位は、中国で15%。ここは、Huaweiの子会社で世界トップレベルのHiSilicon を頂点に2000社以上の弱小ファブレスが群雄割拠の状態であるが、政府の補助金目当ても少なくはないようだ。日本は、韓国や欧州と並んでシェアは1%以下で、世界のファブレス市場で存在感がまるでない。

ここにきて、国を挙げてメモリ強国から、システムLSIでも2030年に世界一となり「総合半導体強国」を目指す韓国で、ファブレスの活動が顕著になってきた。

韓国で通信キャリアがファブレスに変身しファブレスの活動が活発化

各国最大の携帯電話・通信キャリアSK Telecomは、独自開発したデータセンター向けAI半導体チップ「SAPEON X220」を発表し、 AI半導体市場に本格的に進出した。AI半導体の性能を向上させるためには演算コアの設計能力と高性能メモリの連携が必要なため、同社は同じSK グループの半導体メモリメーカーであるSK Hynixとの協力を通じてシナジー効果を生み出す戦略のようである。SKグループの会長は、SK Telecomという社名は、電気通信事業者という時代遅れのイメージであるから5G、AI、セキュリティや、LSI企画・設計など様々な新事業分野を網羅するプラットフォーム企業としての印象を的確に与える社名に変更するよう指示が出ている(参考資料2)。

一方、SKグループのライバルのLGグループのLG Innotekも去る3月に次世代Wi-Fi技術であるWi-Fi 6E(Wi-Fi 6E:6th Generation Extended)を活用した「車載用Wi-Fi 6Eモジュール」を開発したと発表した。

韓国のファブレスTelechipsは、独自開発の自動車用32ビットマイコンを発売した。Telechipsの32ビットマイコンは、Arm Cortex-R5をベースとして設計され、Samsung Electronicsのファウンドリ部門であるSamsung Foundryで28nmプロセスを用いて製造させる。Silicon Worksは、2020年に社長直属部門として「MCU(マイコン)部門」を設立、車載マイコン開発に取り組んでいるとも伝えられているほか、「wBMS(ワイヤレスバッテリ管理システム)」チップやカーディスプレイ用マイコンなどの開発を検討している。さらに、これまで家電製品向けマイコンを手掛けてきた韓ABOV Semiconductorも、車載マイコンの開発に取り組んでいる。

韓国政府は、ロジック/システムLSIでも存在感を高めるべく、「総合半導体強国」目指す長期計画を掲げ、中小のファブレスへの支援や育成を進めており、国内ファウンドリの協力を促している。同時に、大学の半導体教育改革にも着手し、システム半導体専攻学生を優遇してその人数を大幅に増やす様々な施策を実行に移している(注2)(参考資料3)。

日本もその場しのぎではない長期的な半導体国家戦略が必要であろう。しかし、そのまえに、政府は何で立国するのかビジョンを国民に示すべきだろう。この問題は重要なので、いずれ改めて議論したい。


1. TSMCは、日本政府の前工場誘致も、後工場誘致も、共同出資も断って、単独出資で3DIC素材研究所を日本に設置すると2月9日に発表したが、その投資額(最大186億円)は、同社の2021年年年間投資計画額3.3兆円の0.6%未満でしかない。このほかの情報は本稿執筆時点までに全く発表されていない。
2. システム半導体とは、日本でよく使われている言葉であるシステムLSI(英語ではSoC)とロジックファウンドリを指す韓国独特の表現である。韓国政府は「システム半導体契約学科」を全国に拡大して、入学時にSamsungなどへの就職を契約し、学費を免除する。Samsungは、2030年までにTSMCを抜き去る「システム半導体2030ビジョン」を2019年に宣言している。詳しくは参考資料3参照。

参考資料
1. 服部毅、(⽼舗電機メーカー、IT巨額買収の勝算は?)ハードの重要性が高まる時代にソフト補強に走る日本企業の残念感、日経xTECH (2021/05/24以降アクセス可能)
2. 服部毅、SK Telecomが独自設計のAIチップを発表し半導体ビジネスに本格参入、マイナビニュースTECH+ (2020/12/01)
3. 服部毅、韓国、総合半導体強国の実現に向け「K-半導体戦略」を策定、マイナビニュースTECH+ (2021/05/14)

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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