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日韓・米中貿易紛争、韓中ともローカルソーシングを促進、日本はどうする?

日本経済新聞(電子版)は、1月2日夜に、「韓国の化学メーカーがフッ化水素を高純度で大量生産が可能な製造技術を確立したと韓国政府が発表した」というニュースを「日本の製造会社への打撃が長期化する可能性がある」とのコメントとともに伝えた。NHKも3日に「韓国 フッ化水素の国内での大量生産と供給の安定性確保を発表」と題するニュースを流し、「韓国側の出方に影響を及ぼす可能性がありそうです」と結んでいた。

韓国は、欧米同様、2日が仕事始めで、通商産業資源部(日本の経済産業省に相当)成(ソン)長官が、同日午後に、韓国内のフッ化水素トップメーカーの工場を視察し、それに基づいた発表である。この工場は、昨秋増設され現在フル稼働している高純度フッ化水素製造プラント。

日本では昨年11月から12月にかけて、「韓国製フッ化水素は粗悪のため、中国でiPhone組み立て後の最終出荷検査で不良続出」だとか、韓国製フッ化水素が高純度だとわかると今度は「実は日本製だ」とか、情報源不明で真偽が疑われる報道を一部メディアが行っていた。ディスプレイに画像不良があれば韓国でのパネル製造中の検査で見つかるはずだし、フッ化水素輸出入状況は日韓の税関統計で手に取るようにわかるから、日本からの輸出が7月以降ほぼ途絶えていることは明らかである。今回は、このフッ化水素の話題を再び採りあげて、日本勢への影響を見て行こう。

経済産業省が、フッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドの韓国への輸出を規制(霞が関用語では「輸出管理を見直し」)することを突然発表したのは、安倍首相が議長をつとめ自由貿易の重要性を議論したG20が大阪で閉幕した直後の2019年7月1日のことだ。筆者は、日本政府から発表のあったその日のうちに「政治問題を政治的話し合いで解決しようとはせず、返り血を浴びかねない禁じ手ともいえる通商政策を利用しようとするのは日本政府の愚策であろう。日本側にも多大な不利益をもたらす懸念があり、韓国勢の日本離れも進みかねず、長期的には日本の失うものが大きい」ことを指摘するブログを執筆し、翌2日の本欄に掲載された(参考資料1)。あれから半年経過して、ますますその感を強くしている。

SEMIが日本の対韓輸出規制の弊害を指摘

SEMI米国本部の市場調査ディレクターであるClark Tseng氏は、2019年12月中旬に東京で開催されたSEMICON Japan 2019の併催イベントで「米中貿易戦争と日韓貿易緊張に伴うアジアの新たなサプライチェーン」について解説し、「これらの輸出規制によりアジア、とりわけ中国と韓国に新たなサプライチェーンが構築されつつあり、急速に「Local Sourcing(現地調達)」に向かっている」と指摘した(参考資料2)。なお、SEMIは自由貿易の障害となるあらゆる国の輸出規制や禁止には反対の立場を貫いている。

経済産業省はすでに3品目すべて(フッ化ポリイミド、EUV用レジスト、フッ化水素)に輸出許可を徐々に出し始めているが、一方、韓国勢は、これら3品目について日本からの輸入に頼らないサプライチェーン(例えば、フッ化水素に関しては原液を台湾や中国から輸入して韓国内で精製・供給する体制)をすでに構築している(参考資料2)。高純度フッ化水素酸世界最大手のステラケミファ(本社:大阪市)の2019年7〜9月期の営業利益は、韓国への輸出が許可されなかったために前年同期比88%も減少してしまった。財務省統計速報によると、経産省が輸出許可を出した後の2019年11月の日本から韓国へのフッ化水素輸出は、前年同期比93.5%減で、全く回復していない。
 
韓国政府と韓国企業が促進するローカルソーシング

2019年1月の自民党外交部会・外交調査会合同部会が緊急合同会議にて、韓国政府の徴用工訴訟に対する不満足な対応への対抗措置として「韓国向けフッ化水素を禁輸して韓国の基幹産業である半導体産業に打撃をあたえよう」ということを議論して以降、韓国側は警戒を強め、日本勢が圧倒的なシェアを握るCVD材料、ブランクマスク、シリコンウェーハ、SiCウェーハ、化合物半導体ウェーハなどの材料に対しても輸出管理規制が拡大されることを想定して対策を協議してきた、とSEMIのTseng氏は指摘している(表1)。


表1 日本が対韓輸出規制を追加すると韓国側が予想して警戒している素材リストと該当する経済産業省の省令条文 (出所:SEMI米国本部)

表1 日本が対韓輸出規制を追加すると韓国側が予想して警戒している素材リストと該当する経済産業省の省令条文 (出所:SEMI米国本部)


韓国のシリコン基板メーカーSK Siltronは、先手を打って米DuPontのSiC製造部門を昨年9月に買収を決めている。韓国政府は、半導体だけではなく主要産業を対象に「素材・部品・装備(製造装置および設備)」の国産化を促進する文大統領直轄の委員会を設置し主要産業分野での国内調達を進めようとしている。そのために、韓国政府は、今年、2000億円規模の予算を組んでいると伝えられている。韓国政府は、1月5日、対韓輸出規制3品目をはじめ223品目に関して「基本技術研究開発費用税額控除」の対象とすると発表し、税制面でも素材・部品・装備の開発を支援するとしている。

日本では、「韓国では素材開発に30年かかる」などと的外れの指摘をする向きがあるが、素材開発といっても必ずしも日本や海外の技術にたよらずに独自にゼロから開発するわけではない。韓国の大手顧客は、むしろ海外サプライヤが韓国内で現地生産するように要請している。韓国政府もそれを歓迎している。昨年11月下旬に韓国天安(チョナン)市で挙行された台湾GlobalWafers傘下のMEMC (元米国Monsanto Electronic Materials Co.)韓国第2工場竣工式には、文大統領が異例ともいえる参列をし、祝辞を述べたほどだ(参考資料3)。住友化学は、韓国にある100%子会社である東友ファインケム(Dongwoo Fine Chem)で、東京応化は韓国仁川(インチョン)工場でそれぞれ韓国半導体メーカー向けにフォトレジストを増産しているが、最近、Samsungの要請でJSRも韓国でフォトレジストを製造する方向で検討を行っていると韓国メディアが報じている(参考資料4)。

半導体ウェーハ・ディスプレイパネル自動搬送機器メーカーのローツェ(本社:広島県福山市)も、韓国での需要増加に対応するため韓国子会社の龍仁(ヨンイン)工場の拡張工事を行っているが、Samsung Displayから総額28億円規模のディスプレイ製造装置を受注したと1月6日に発表した。業界関係者によると、「韓国の大手顧客の要求にスピーディに応じ、ひざを交えて仕様を詰めて短期に納品するためには、現地で生産しなければ競争力を確保するのは難しくなってきた」という。

SEMIが指摘するように、中国政府も韓国同様にローカルソーシングによる自給自足を進めようとしている。日韓・米中貿易紛争に起因する各国のローカルソーシングの流れのなかで、日本の「素材・部品・装備」メーカーは、ディスプレイ、半導体メモリの二の舞にならぬように、戦略の再検討が必要だろう。


参考資料
1. 服部毅:「Huaweiへの禁輸解除や追加関税先送りの陰に半導体業界の圧力」の最終節「経産省、通商政策に半導体材料を利用、日韓関係さらに悪化へ」、セミコンポータル (2019/07/02)
2. 服部毅:「米中貿易戦争と日韓輸出規制で進む半導体製造装置・材料の国内調達 - SEMI」 マイナビニュース (2019/12/26)
3. 服部毅:「台湾企業が韓国でシリコンウェーハを増産へ、進む韓国の半導体材料の国産化」マイナビニュース(2019/11/25)
4. 服部毅:「JSRが韓国で半導体製造用フォトレジスト製造を検討 - 韓国メディア報道」マイナビニュース(2019/12/06)

Hattori Consulting International 代表 服部 毅

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