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中国への技術流出を防ぎさえすれば東芝は生き残れるのか?

去る2月20日に東京で開催されたセミコンダクタポータル主催「半導体市場、2018年を津田編集長と考える」(参考資料1)に出席した。

前回(2017年8月8日)のイベントでは、多くの参加者が「今後の半導体産業の先行きが読めない」ことに悩み、「半導体産業の先行指標になるようなものはないか?」との質問や意見が相次いだ(参考資料2)。今回も、「昨年、スマートフォンやPCなど半導体の主要用途の出荷台数は伸びていないのに、半導体産業が20数%も伸びたのはなぜか?」「材料費はわずか5%しか成長していない(SEMI調べ)のはなぜか?」というような疑問が相次いだ。前回、参加者から出された疑問には、会場で即答し、後日本欄で詳しく解説させていただいた(参考資料23)。

今回の参加者の疑問にも、この考え方でお答えできた。半導体応用製品の数量の伸びはほとんどなかったが、メモリ価格高騰で、メモリ搭載最終製品の単価が高くなったために、応用製品の売上高は伸びた。成熟業種のはずのPCもスマートフォンも売上高だけ見れば成長業種に一変している。半導体産業が20%超で成長したのに、半導体材料業界が5%(平均)しか成長しなかったのも、実は当然である。なぜなら、メモリ市場は、昨年6割も拡大したけれども、数量の伸びは数%しかなかった。メモリ各社は、メモリ価格の高止まり状態を維持のためメモリ生産能力を上げなかった。数量の伸びは、低歩留まりだった最先端メモリの歩留まりが習熟曲線に乗って向上した寄与による。半導体生産量が2桁増えたわけではないので、量産に使うガスや薬品の量はそれほど増えなくて当然だろう。

メモリ価格が下がると東芝メモリに暗雲が立ち込めるか? 
今年に入り、DRAM価格は(2017年第4四半期比で)数%微増したが、NANDフラッシュメモリの価格は値下げに転じている。これは、昨年から予想の付いていたことであり、驚くに値しない(参考資料4)。にもかかわらず、経済紙には、NANDスポット価格低下をネタに「NAND一本足の東芝メモリに暗雲」という大きな見出しの人目を惹く記事が出た。

メモリ価格が下がれば(適正価格に向かえば)、需要が増して、データセンターのサーバのオールフラッシュストレージの普及が進み、PCでもSSD化が進み、スマホへのメモリ搭載量が増えるだろう。メモリ容量を増やさないローエンド機種は価格が下がり需要が増えるだろう。いままで高騰しすぎたメモリ価格が適正水準に下がったところで、東芝メモリに暗雲が立ち込めると見るのは早計であろう(参考資料5)。

中国国内動向次第では東芝メモリに暗雲か?
ただし、別の面で東芝メモリは厳しい局面に立たされる恐れがある。今年1月8日に、IntelとMicronは、96層NANDフラッシュメモリの共同開発が完了した時点でNANDフラッシュメモリの協業を解消すると発表した。それ以降、海外メディアは「Intelは、中国も国策ハイテク投資グループ清華紫光集団にNANDフラッシュの製造技術を供与するのではないか」という憶測記事を載せてきた。火のないところに煙は立たないようで、両社の蜜月ぶりが徐々に明らかになってきている。

Intelは、2月22日に、紫光集団の中核的存在である半導体ファブレスUnigroup Spreadtrum & RDA と5G分野で長期的な戦略的な協業契約を結んだと公式発表した。両社は、共同で中国市場向けに5Gスマートフォン・プラットフォームを開発し、Intelが半導体技術を供与し、同社がQualcommに対抗して開発したモデムも搭載するという(参考資料6)。

一方、Intelと紫光集団の関係を調査していた台湾の市場動向調査会社TrendForce は、3月1日、「Intelは紫光集団と、NANDフラッシュメモリの提供と販売について現在協議している」と報じた(参考資料6)。

同社の調査によると、清華紫光集団傘下のUNIC Memory TechnologyはIntelが大連で量産している300mmの64層3D NANDフラッシュメモリウェーハの最終検査(テスト)、パッケージング(実装)、モジュール製造および販売を担当するという。紫光集団傘下のXMC/YMTCは未だ32層までしか開発できていないが、UNICは64層品をストレージに加工してさまざまな形のストレージとして販売することができるようになる。

Intelは、中国市場攻略に最大の関心を寄せており、これらの戦略的提携を手はじめにCPU、モデム、メモリ製品を含む様々な製品で協業や合弁事業の機会を積極的に探っているとTrendForceは分析している。Intelと中国勢は、半導体設計から製造に至るまで全面的に協業体制を敷きつつある。

しかるに、東芝メモリ売却を巡って、「日の丸半導体技術の中国流出」を懸念する声が経済産業省や産業界に根強かった。東芝メモリは中国紫光集団や台湾鴻海精密工業への売却を拒否し、次世代NAND 量産工場を岩手に建設することを決め、中国への技術流出防止は万全だ。しかし、中国勢は日本の技術などなくても、他の海外企業と提携し、したたかに技術を磨いている。「日の丸半導体技術の中国流出断固阻止」などと言っているうちに世界の景色は一変している。中国はいずれ半導体自給自足体制が確立できたら, 米国トランプ大統領を見習って、関税障壁を高めるだろう。その時、中国に半導体工場を持ち、世界最大の半導体市場で地産地消に備えるIntel、Samsung、SK Hynix、TSMC、UMC、GlobalFoundriesは生き残れるだろうが、東芝ははたして生き残れるのだろうか?
 
「白色LEDは中国製の安価な製品が市場を席巻したため当社は事業撤退した。同様の事態はフラッシュメモリでも脅威になる(参考資料7)」と東芝副社長であり東芝メモリ社長でもある成毛康雄氏は、中国の脅威を認めている。東芝はどう手を打つのだろうか。


参考資料
1. SPIフォーラム「世界半導体市場、2018年を津田編集長と共に議論しよう」 (2018/02/20)
2. 服部毅「今後の半導体産業の成長を占う先行指標は何か? それはGDPではない!」(2017/08/23)
3. 服部毅「今後の半導体産業の成長を占う先行指標は何か?それはメモリ価格!」(2017/09/05)
4. 服部毅「2018年世界経済総予測:半導体メモリバブル一息、長期的には右肩上がり」、週刊エコノミスト、2018年1月2日号, p.104.
5. 津田建二「フラッシュメモリは平時の値下がり曲線に乗りつつある」 (2018/02/19)
6. 服部毅「Intelが中国の清華紫光集団とNANDで提携」 マイナビニュース 2018.2.6.
7. 「成毛康雄東芝副社長インタビュー」、週刊エコノミスト、2016年10月25日号、p.27

Hattori Consulting International代表 服部毅

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