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東芝社員だった舛岡氏に再び脚光、硬骨エンジニアは日本にはもう居ない?

「東芝メモリの2兆円と言われる資産価値は30年前、一人の男から生まれた。元東芝社員・舛岡富士雄は半導体記憶媒体フラッシュメモリを発明。開発を強引に押し進めたが、それは当時あまりに“非常識”な製品だった。日本発の革新的技術はいかにして生まれ、どう世界を変えたのか?今ではスマホなどあらゆる電化製品に組み込まれるフラッシュメモリの開発秘話に迫る」。

こんな番組予告で、NHKが昨年11月23日午後11時から放映したのが、「世界を変えた、知られざる“異端”の日本人」を採り上げたシリーズ不定期特番「ブレイブ 勇敢なる者」の第3話で、そのタイトルは「硬骨エンジニア」。

今回の主人公はフラッシュメモリの生みの親、元東芝社員の舛岡富士夫氏(東北大学名誉教授)で、東芝時代の苦心惨憺の開発秘話を、東芝に辞表を出してやめていった本人とかつての部下たちが生々しく証言する番組だ。

この番組の直前に放映されたのが、引退を決意した安室奈美恵の涙ながらの「告白」特番だった。だから、そのままチャンネル変えずに見る気もなく見た安室ファンが多かったらしく(?)、初めて知った東芝および舛岡氏に関する衝撃的内容に驚きを隠さず、多くの視聴者がNHKに感想を寄せている。(NHKは番組ごとに多数の投書をウエブサイト上で公開している(参考資料1))。再放送の要望も多数寄せられているが、ビデオ・オン・ディマンドでも見ることができる。

この番組は夜遅い放映だったので、私は見落としてしまったが、複数の友人から「服部さんのセミコンポータル記事(参考資料2)を以前に読んでいたので、番組内容がよくわかった」、「あの記事通りの内容でびっくりした」といったメールをいただいて、そのような番組があったことを初めて知った。この番組放送以来、この記事にいくつもリンクが張られるようになった。 私がブログ記事で「Intelは彼(=舛岡氏)の発明を最初から高く評価していた」とさらっと書いた点にも、NHKは、シリコンバレーのインテル本社まで出向いて証言をとっていたので、この記事の信頼性が増したようだ。

私がブログでとり上げた舛岡氏と東芝との民事訴訟についても、番組では舛岡氏自らが次のように語っている。「(裁判を起こすことで)報酬の少ない技術者を元気づけたかった。訴訟の請求額などは問題ではない」、「僕は(元の勤務先である東芝と)戦うためにやっているわけではなくて、(東芝が)ちゃんと評価してくれればいいわけです」、「そりゃ、(東芝から)評価されたいですよ。それで、相当な対価を(東芝に)要求したんです」、「お金の問題じゃない。(東芝が公式に)“ありがとう”と言ってくれれば終わりなんだけどね」(カッコ内は本稿筆者の補足)。

一方で、舛岡氏は「東芝にいたからこそ、フラッシュメモリを開発できた」とも言っている。この辺の複雑な心境については、視聴者にはわかりづらかったようで、NHKには「なんてこった東芝!どうにかならなかったのか。でも、東芝じゃなきゃできなかったってみんなが言う矛盾、なんとなく見始めたが目が離せなくなった」というコメントも寄せられている(参考資料1)。

ここで、同じような境遇で思いだすのが、元日亜化学社員の中村修二氏のケースだ。日本企業は中村、舛岡両氏のような傑出した人材の貢献に正当な報酬で応えてこなかったのみならず、彼らは企業業績に貢献するような顕著な業績や特許など出してはいないと裁判で主張し、醜態をさらけ出したうえにいまだにその立場を変えてはいない。裁判の上では和解はしたものの、感情的には和解してはいない。

最近、上野の国立科学博物館に「日本の科学者」という常設展示コーナーが新設され、ノーベル物理学賞受賞者として中村氏の業績も展示されている(図1上)。そこには、技術的業績にとどまらず、一歩踏み込んでいわゆる中村裁判についても次のように言及した記述がある。「中村は…(略)…科学者・技術者の権利を主張する裁判を日本で起こした。科学技術振興のため、日本の社会制度はどうあるべきか?中村はその後も問いかけ続けた」(図1下)。シリコンバレーのコンピュータ歴史博物館の舛岡氏に関する展示でも、いわゆる舛岡裁判に関する記述があることはすでにレポートした(参考資料2)。日米両博物館の学芸員は、科学技術の振興にとってこれらの裁判の重要性を見抜いている。


図:「中村裁判が問いかけたもの」

図1 国立科学博物館(上野公園内)における中村修二氏の業績展示 出典:2017年11月、筆者撮影


ところで、中村裁判、それに続く舛岡裁判の後で、日本の技術者には、生き生きと働ける環境が整備されただろうか。中村氏が問いかけ続けたという社会制度は変わっただろうか。その後、中村氏が猛反対したにも関わらず、日本政府・経済産業省は、特許法を事実上「原始使用者帰属」へと改悪してしまった。いつの間にか、日本の経営者の中には、エンジニアの待遇改善に取り組む代わりに、欧米では常識として、自分の報酬は億単位に吊り上げる一方(赤字でも辞任せず、経営者が厚顔で高給を取り続けるのは欧米の常識ではない!)、社員には、チャレンジと称して目標必達を強いるか、つじつま合わせをするか、の二者択一しかないような状況に追い込んだ者がいた。

日本のエンジニアは今や内向き志向者ばかりになってしまったように見える。このような状況下で、中村氏や舛岡氏のようなエンジニアならぬ“変ジニア”は日本から生まれるだろうか。ドッグイヤーの勢いで、IoTもAIもEVも5Gも自動運転も超並列コンピューティングも半導体超微細化もグローバル規模で猛進する中、硬骨な“変ジニア”が現れて逆転ホームランでも打たぬ限り、日本勢がドッグイヤーを生き抜くのは至難な状況に陥ろうとしている。日本科学技術振興のため、変ジニアをいかすため、社会制度はどうあるべきか、皆で議論の輪を広げようではないか。


参考資料
1. NHK番組紹介サイト:ブレイブ 勇敢なる者「硬骨のエンジニア」
2. 服部毅 フラッシュメモリは東芝が発明したと胸を張って言えるか? (2017/05/15)

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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