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高品質と過剰品質の境目

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言葉の説明をするつもりはないが、かつて大いに騒がれた言葉としてソフトエラーの問題がある。実は最近でも、微細化技術が進みSRAMにおいて問題が表面化してきている。ソフトエラーは、一時的な故障のことで電源を切ればまた元の正常状態に戻る故障モードのことである。これに対してハードエラーは永久故障ともいうべき故障モードで、電源を切ろうが何をしようが決して元には戻らない。

パソコンなどで電源をリセットすると元通りに戻ってしまう、一時的な故障はまさにこのソフトエラーである。このような故障は、パソコンならリセットだけで済まされるが、銀行端末などでは、メモリーのビット故障は許されない。銀行端末に使われるコンピュータはメインフレームであり、搭載されるDRAMではソフトエラー対策に万全を期している。ECC(誤り訂正回路)や冗長ビット構成などを1チップ上に設けており、1ビットエラーならたとえ起きても正常に動作する。

ECCや冗長ビット構成は、本来必要なメモリー容量に、誤り訂正用や冗長構成のメモリーセルを加えなければならないため、チップは大きくなる。このため原価は高くなる。ただしソフトエラー対策を施したDRAMチップは簡単には故障しないため、品質は高い。

しかし、このような‘無駄な’メモリー容量をパソコン向けのDRAMにも搭載していたら、コスト競争には勝てなくなる。競争相手のメモリーがもっと小さくできていたら、コスト的には負ける。高品質ではなく過剰品質になる。パソコンのマーケットが小さいうちはまだ高品質でいられた。しかし、パソコンのマーケットが大きくなっても高品質分野だけを狙っているなら、大きなビジネス機会を逃してしまう。これは損失ではなく負けとなる。

同志社大学の湯之上隆氏は、かつて日本のDRAMメーカーが韓国のサムスン電子やマイクロンに負けた理由のひとつは、コストの高いDRAMを作り続けてきたことだと指摘する。つまり、マーケットがメインフレームからダウンサイジング、パソコンへと移ってきた時代になっても、ひたすらメインフレーム向けの高いDRAMを作っていた。

この時代を反省すれば、DRAMの大口顧客がメインフレームからパソコンへと移ってきたことを認識ができていなかったことになる。顧客からヒアリングなり調査なり、ディスカッションなりをしてこなかったつけが回ってきたのである。高品質がいつの間にか過剰品質にすり替わってしまったことに気がつかなかった。この反省を元に、これからの日本が勝つためにはマーケティング部門を確立し、マーケット動向をしっかり把握しておくという態度が大事になる。しかもマーケティング部門の権限を大きく持たせる必要がある。


津田建二

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