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英国特集を終えて;一言でいえばイノベーションを推進している英国

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英国と日本との通商が始まって今年で150年たつそうだ。今回の英国特集で、ハイテク地域の集中する代表的な街である、ケンブリッジのケンブリッジ大学は来年創立800年を迎え、ブリストル大学も創立100年を迎える。歴史的にはブリストル大学は若い。

かつての明治政府は英国をお手本にした。英国は他の国とは違い、イノベーションを求める雰囲気が強いようだ。

1960年代、ビートルズが誕生したとき、作曲、編曲、作詞、演奏、歌、という音楽制作のすべてを担当する人もグループもそれまでいなかった。必ずどこかが欠けていた。ビートルズの偉大さはまさになかったものを作り出したところにある。イノベーションである。

アイザック・ニュートンがケンブリッジで林檎が木から落ちるのを見て万有引力を発見した、と言われているが、その万有引力を証明するのに微積分学という数学を生み出した。微積分学はスタチックな力の関係だけではなく、時間と共に物理量が変化するダイナミックな動作も記述できる。微分方程式で解くわけだが、変化量は複数あっても解くことのできる偏微分方程式の威力はさまざまな自然現象や社会現象を解くのに有力な手段だ。最近の例では、金融分野のデリバティブ金融商品が数日ないし数週間経つといくらの価値を生むかを予測できるブラック-ショールズの式は偏微分方程式で導き出した。

ケンブリッジはこれまで学問そのものの街という印象だった。ARM社やCSR社などが出てきて英国のシリコンバレーといわれていることは分かっていた。今回の取材で市場経済の効果(ROI:return of investment)が大学の研究にも求められており、ケンブリッジ大学が実際に市場経済に役立つ研究をしていることを知って、正直言ってびっくりした。大学の研究に企業が資金を提供し、開発された技術を企業が使い、商品化して売り上げ・利益を得る。得た利益でまた大学へ投資する、という一連の研究開発チェーンに大学の研究を位置づけるわけだ。これも大学のビジネスモデルにとってイノベーションともいえるべき画期的な出来事だろう。

実は今、海外ではイノベーションという言葉が大流行である。技術革新だけを意味する言葉ではなく、ビジネスモデルや社内改革、行政改革などこれまでの考え方を一変させることにもイノベーションという言葉が使われている。

そういえばマーガレット・サッチャー元首相が行った行政改革も政治の世界でのまさにイノベーションだといえる。これまでになかった政府の方針は、民間企業の役に立つことを官僚がしようというもので、天下りとか民より官が上という意識の全く正反対だ。昔の日本にもあった言葉、そう「滅私奉公」こそが、今の英国の役人が持っている姿勢だといえる。このサッチャー改革を受け継いだ、労働党政権のトニー・ブレア元首相やブラウン首相もイノベーションを継続していく姿勢を見せている。

1970年代にビートルズのジョン・レノンは「イマジン」という曲を作った。戦争のない平和な世界を想像してごらん(Imagine)、という思いを込めたの曲である。当時東西冷戦の真っ最中に平和を訴えることはけしからんという米国政府、CIAからジョンはにらまれていた。1990年ごろにCIAとおぼしき男と知り合いになり(彼は自分を決してCIAとは言わなかったが)、ビートルズが好きだと言ったらビートルズの前期の歌か、後期の歌か、という質問を受けた。変なことを聞く奴だな、と当時思っていたが、知り合いの米国人にも会わせたら、奴はCIAに間違いない、と彼は言い切った。イマジンは後期の歌であり、前期の歌はたわいのない恋愛ソングでしかなかった。

話は横道に反れたが、この歌の中に、「国」のない世界を想像してごらん、というくだりがある。実は現在のグローバル化がまさに、歌詞の一部「Imagine there is no country」である。英国NMI(National Microelectronics Institute)のジョン・ムーア氏とブリストルのスタバで国とは何かを議論した。もはや企業にとって国という組織は意味のないものになっているのではないか、という意見で一致した。マクドナルドは世界中で今一番安い牛肉の価格を示す場所から常に輸入している。その情報を世界中のマクドナルドが共有する。IBMもマクドナルドと同様に、世界で一番設計スキルのある国にデザインセンターを置くという考えでインドにデザインセンターの本拠地をおいた。

EUは国が融合し、一つの連合体を作っている。ジョン・レノンが夢見た世界がEU内に出来上がっている。EU内の国から国への出張は、国内出張となんら変わりはない。言葉や民族、文化の違いを互いに尊重しあいながら、国境をなくそうというEUの考え方もイノベーティブである。

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