セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト
セミコンポータル

なぜトランジスタの発明が重要なのか(第3回)

|

デジタル、アナログ回路を組む上ではMOSやバイポーラの差はたいしたことがなく、トランジスタというデバイスの発明こそが重要だということを述べてきた。最後に、今ならラテラル(横型)バイポーラトランジスタというアイデアはどうかと、提案した。もちろん、今の低消費電力時代には、CMOSと同様にnpnとpnpの相補構成を基本とするラテラルバイポーラのことを指している。

MOSのゲートリーク電流増大によるゲート酸化膜の物理限界が近づき、今は沈静化しているがサブスレッショルド電流増加の問題も高集積LSIでは厳しい。ゲート酸化膜の問題がなく、ショックレイの時代とは違いリソグラフィでベース幅をコントロールできる今、相補型ラテラルバイポーラトランジスタの復活はありえないのか。検討してみる価値はあろう。

さて、トランジスタを基本素子にしてきた半導体集積回路の将来は、やれ量子デバイスだとか、バイオチップだとかと言われている。半導体トランジスタを飛び越えて量子デバイスやバイオチップへと科学者は飛びついているが、本当にそれでよいのか。半導体を量子力学的な基本から見てみよう。

昔から半導体そのものは、固体の中を走る電子の振る舞いを量子力学的に解くことから出発している。真空管なら衝突する物が何もない真空中を電子が走るわけだから、電子同士の衝突などはあるが、カソード−アノード間は基本的に電子はバリスティック伝導を行うはずだ。固体の中では格子と衝突し、電子は減衰することで抵抗が生まれる。電子移動度はまさに抵抗そのものを表している。

規則正しく並んだシリコン格子の最外殻電子が自由電子に変わるためにはエネルギーギャップを飛び越えて伝導帯に移る必要がある。この伝導帯のエネルギーは、電子のもつ運動量に対して一定ではなく、曲線を描く。これはよく知られた量子力学で電子の振る舞いを解くと、運動量kに対して曲線のエネルギーを描く。

この曲線の曲率が小さいと電子の有効質量は小さく、曲率が大きいと有効質量は大きい。この性質をうまく利用したMOSトランジスタが最近登場している。シリコン格子内を走行する電子にとって有効質量が小さいことは大きな移動度につながり、有効質量が大きいと移動度は小さくなる。シリコンの自然の格子はいじることはできないが、人工的に格子(人工的に作った格子をノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏は超格子と名付けた)を作り、ドレイン-ソース方向には移動度は大きく、ゲート方向に移動度が小さくなるようなMOSトランジスタができれば、ゲートリークは少なく、ドレイン駆動電流は大きくなるはずだ。この新型MOSトランジスタが米Mears Technology社が開発したシリコン超格子トランジスタだ

つまり、従来のMOSトランジスタだけに固執せず、リソグラフィ技術で37nm程度の寸法を切れるようになった今、半導体の基本的な性質に立ち返り、量子力学的な側面、バイポーラ動作など、基本に立ち返り半導体を見直してみることが必要ではないだろうか。ここに新しいチャンスがある。電子1個で動く量子効果トランジスタなどのような非現実的ではなく、また量子効果だけを狙って4Kのような極低温でしか動作しないデバイスを作るのではなく、室温動作で今作れる技術を使う新しいトランジスタのネタはきっとあると思う。

月別アーカイブ

Copyright(C)2001-2024 Semiconductor Portal Inc., All Rights Reserved.