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さようならAndrew Groveさん、安らかに

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シリコンバレーの父と呼ぶ人もいるIntel社のAndrew Grove氏が逝去された。享年79歳だった。Grove氏はビジネスマン/ウーマンには「パラノイアだけが生き残る(Only the Paranoid Survive)」の著者として有名だが、半導体エンジニアには「Physics and Technology of Semiconductor Devices(半導体デバイスの物理と技術)」の著者としてよく知られている。

図1 IntelのCEO、会長を務めたAndrew Grove氏

図1 IntelのCEO、会長を務めたAndrew Grove氏


Gordon Moore氏とRobert Noyce氏が1968年に創業したIntel社の最初の社員としてGrove氏は入社した。1979年に社長(President)になり、1987年にCEO(最高経営責任者)となった。また1997年から2005年まで会長職にもあった。Intel初期のこの3名はIntelのCEOと会長を歴任したことに加え、半導体の勃興期に非常に大きな仕事をした。Gordon Moore氏が1965年、Fairchild時代にICの集積度は年率2倍で増加する、というムーアの法則を導いた。Robert Noyce氏は、プレーナ型ICを発明した。Texas Instruments社のJack Kilby氏がノーベル賞を受賞した時に、Noyce氏は残念ながらこの世にいなかった。このためノーベル賞を逃した。

Grove氏の半導体教科書「Physics and Technology of Semiconductor Devices」は、半導体物理だけではなく、拡散・プレーナプロセス技術についても理論付けされており、筆者も半導体の勉強に大いに役立ったことを覚えている。半導体の教科書としてBell LaboratoriesにいたSimon Sze氏の「Physics of Semiconductor Devices」も役に立つ教科書であったが、こちらはシリコン半導体だけではなく、化合物半導体の光デバイスやセンサなどの仕組みを解説するデバイス物理に特化した本である。二つの本を読めば半導体の全てがわかる。

ハンガリーで生まれたGrove氏は幼いころ病気により耳を患い、ほとんど聞こえなかったと言われている。その後、1950年代のソ連侵攻によるハンガリー動乱から難民として米国にたどり着いた。ニューヨーク市立大学(カレッジ)で化学工学を専攻し、トップの成績で卒業した。大学での講義を聞く時に、教師の唇を見ながら言葉を覚える読唇術と、英語をマスターした。卒業後は、カリフォルニアに移住しUC(カリフォルニア大学)Berkeleyで博士課程を修了した。UCB卒業後は、Fairchild Semiconductor社に入り、Gordon Moore氏の元で研究者となり、R&Dの副所長に昇進した。Moore氏とNoyce氏がIntelを創業すると、Grove氏もすぐに入社した。

Intel社は、メモリとプロセッサを発明した企業であったが、メモリとして1KビットDRAM(Intelは3トランジスタ/セルで、TIが1トランジスタ/セル)を開発した。DRAMの集積度が、4K、16Kと増すにつれ、次第に日本の半導体メーカーが力を付けてきた。64Kビット以降は、NECや日立製作所、東芝、三菱電機、沖電気工業など日本勢が半導体売り上げランキングの上位を占めるようになった。そしてIntelは、突然DRAMメモリを放棄する。この時に重要な役割を果たしたのがGrove氏だったとニュースリリース(参考資料1)は述べている。

当時のCEOはNoyce氏で、Intelがメモリを捨てマイクロプロセッサに集中することを決めた1980年代中ごろ、日本でも記者会見を開いた。その時に、Noyce氏が出席しDRAM撤退を決めたことに対して「DRAMがもはやコモディティ商品になったから、Intelは扱わないことを決めた」、と述べた。Intelがマイクロプロセッサに集中した結果、386やPentiumを通して年間売上額を桁違いに伸ばした。ニュースリリースによると、19億ドルから260億ドルへ増やしたと表現している。

Intel Insideのロゴや、「パラノイアだけが生き残る」本の前に出版した「High Output Management」などでGrove氏は、経営者としても注目された。Intelのマイクロプロセッサによってパソコンからインターネット産業、さらにシリコンバレーが活性化した。こういった産業に尽力したことで、Harvard Business Schoolの教授であるDavid B. Yoffie氏は、Grove氏を「シリコンバレーの父」と呼んでいる(参考資料2)。

参考資料
1. Andrew S. Grove 1936-2016, Intel News Release (2016/03/21)
2. Andrew S. Grove, Longtime Chief of Intel, Dies at 79 New York Times, (2016/03/21)

(2016/03/23)

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