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大学でも応用を見据えた研究が国際会議を牽引する時代に−A-SSCC2012から

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ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)のアジア版というべき、A-SSCC(Asian Solid-State Circuits Conference)が11月12〜14日、神戸国際会議場で開かれる。総合テーマ「スマート社会に向けたICテクノロジー」に沿った基調講演が4件あり、採択された論文にもこのテーマを具現化した研究成果が続出しそうだ。

図1 A-SSCC2012のテーマは「スマート社会に向けたICテクノロジー」 出典:A-SSCC実行委員会

図1 A-SSCC2012のテーマは「スマート社会に向けたICテクノロジー」
出典:A-SSCC実行委員会


A-SSCC2012では、233件の投稿論文に対して、96件が採択された。採択論文のうち大学の講演は63%と最も多いが、この傾向はA-SSCCが始まった2005年からさほど変わっていない。ここでの講演内容は、大学での半導体回路研究のトレンドを表しているとみてよいだろう。

テーマとするスマート社会は、スマートグリッドやスマートファクトリ、スマートビルディングやホーム、スマートカー、クリーンエネルギー、次世代サービスステーション、スマート医療・ヘルスケアなどをイメージした社会となっている(図1)。このような社会を実現するためにはICテクノロジーが欠かせない。逆にIC側からは、こういったスマート社会の応用を見据えた半導体技術の開発が求められる。

13日の基調講演では、トヨタ自動車においてハイブリッドカー「プリウス」を指揮してきた佐々木正一氏(現在、慶應義塾大学教授)が「電気自動車・ハイブリッドカーからの半導体技術への期待」について述べる。韓国SKハイニックスの上席副社長・研究所長であるSungjoo Hong氏は、NANDフラッシュメモリのスケーリングの先には立体構造が提案されているが、立体構造だけで高集積化は可能なのか、STT-RAMやReRAM、PCRAMなど新しいメモリについても議論する。

14日の基調講演では、台湾大学病院の院長であるMing-Fong Chen氏が家庭でヘルスケアを行うための「家庭医療モデル」について話をする。同病院では、ワイヤレス心電計で心拍数を家庭で測定しクラウドコンピュータにデータを送る、というヘルスケアシステムを実践している。マルチモード信号処理プロセッサやGPS、MEMSなどの半導体チップが実現のカギとなるとしている。もう1件の基調講演では、インテルのShekhar Borkar氏がエネルギー問題を解決するための半導体システム的手法について述べる。これまではプロセスや回路で低消費電力化してきたが、システムアーキテクチャやソフトウエアの観点からもエネルギー効率を上げることが求められるとする。

一般講演のセッションには、以下の9分野がある;(1)産業界からのICチップの発表の場となるインダストリープログラム、(2)エネルギー効率の良いアナログ回路、(3)ADC/DACのようなデータコンバータ、(4)低消費電力のためのデジタル回路、(5)高速ながらエネルギー効率の高いSoC/シグナルプロセッシング、(6)ワイヤレス技術に欠かせないRF回路、(7)高速の有線通信トランシーバ、(8)超音波診断装置やニューラルネットワーク・BAN・エネルギーハーベスティング整流回路などの新技術、そして(9)メモリ周辺回路である。

インダストリープログラムは産業界の講演なので応用がはっきりしているが、それ以外のセッションでさえ、センサからの信号を安定的にデジタル出力させるための回路技術や、位相を2.25度という高精度で制御できるデジタルPLLなど、実際の応用が見える論文が多い。もちろんアナログ回路といえども純粋のアナログだけではなく、デジタル回路も有効活用することで、よりニーズに合った半導体ICを設計できる。データ変換器ICでも携帯電話への応用を意識した低消費電力のA-Dコンバータの発表や、暗号化を強化したデコーダや、リコンフィギュアラブルなビデオコーデックなど画像処理やセキュリティ応用の発表もある。RFでは、テラヘルツイメージング応用での検出器に使う245GHzの受信器や、周波数帯域が10MHz〜6.6GHzと広い周波数シンセサイザを0.38mm2のシリコンチップで実現するなどの発表もある。メモリセッションではNANDフラッシュの長寿命化とプログラム速度向上のために、ベリファイ電圧をメモリの使用頻度と共に変えていく方式や、ReRAMとNANDフラッシュをハイブリッドで使う場合の昇圧回路のコイルを1個で済ませる方式のメモリなど、実応用の発表がある。

A-SSCCが開催される11月12〜14日の週の後半(14〜16日)には、パシフィコ横浜で「Embedded Technology展」が開催される。台湾や韓国など海外からの参加者にとってこの週は、日本で仕事のできる有効な1週間となる。

(2012/09/04)

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