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SSDMでの発表件数が意味するものは産官学共同研究の着実な増加

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半導体デバイスと材料を中心とする国際会議SSDM(International Conference on Solid State Devices and Materials)が今回、京都で初めて開かれることになった。VLSI Technologyと同様、企業からの論文発表件数は減少気味だ。だからといって、中身をよく分析してみると、技術開発までが衰退している訳ではなさそうだ。

先日、SSDMの記者会見が開かれた。ここ10年のSSDMへの投稿論文数と参加者数を見ていると、数の上では共に企業の貢献は減少し、大学からの貢献が増加している(図1)。図1の学術研究機関とは大学および公立の研究機関を指している。最近の電機産業、半導体産業は厳しい状況に置かれ、論文の減少は研究開発活動が停滞していると受け取られてきた。


図1 SSDMでの論文発表件数と参加者数の推移 出典:SSDMのデータを元にセミコンポータルが加工

図1 SSDMでの論文発表件数と参加者数の推移
出典:SSDMのデータを元にセミコンポータルが加工


だからといって図1において、大学の論文数がしり上がりに増えていることは研究活動が急激に活発になっていると言えるだろうか。2000年よりも2010年の方が5〜6倍も増えている。しかし、大学の工学部・理学部における院生・学部学生の数はそれほど増えていない。「学会員数も減ってきている」(SSDM久間和生組織委員長)。文部科学省の予算は決して増加傾向ではない。2000年代になって大学の研究活動が、限りあるリソースの中で急速に活発になったのだろうか。

企業研究活動の衰退、大学研究活動の活発化、いずれも違う。企業の論文件数の減少は、必ずしも企業活動の衰退ではない。ただ、「企業は、(2000年以前の)昔ほど基礎研究を手掛けなくなった」(久間氏)。この結果、企業は基礎研究を大学に求めるようになった。かつては、電機メーカーは基礎研究から応用研究、製品開発まで1社で全て手掛けてきた。しかし、ROI(return of investment)を重視するようになってきたため、企業は製品開発に注力を置くようになったと同時に、手掛ける分野を絞るようになった。例えばCMOS技術は、今やルネサスエレクトロニクスと東芝、富士通セミコンダクター、ロームなどしかいなくなり、パワー半導体は三菱電機や富士電機が中心となってきた。こういった背景から、基礎研究の論文は出にくくなった。

加えて、昔はシリコンのDRAMやSRAM、GaAs系化合物半導体など製品に近いデバイスの論文も多かった。今エレクトロニクス産業は、スマートフォンのシステムアプリケーションが牽引する時代になり、学会での論文という形で表現することは少なくなった。実際、スマホの有力なプロセッサメーカーである、インテルやクアルコム、マーベル、nVidia、テキサスインスツルメンツ、ブロードコムなどが学会でアプリケーションプロセッサのアーキテクチャやその技術内容をSSDMで発表することはほとんどない。

では、何が起きているか。実は昔と違って、企業と大学や公立研究機関との共同研究が増えているという。SDDMでの論文発表者の定義だが、第一著者の所属によって学術機関か企業かを定義している。大学と企業との共同研究の場合、学会などでの発表は大学関係者がまとめることが多い。大学や研究者の間では、論文の数が研究活動の大きな指標の一つになるからだ。この状況は米国の方がもっと進んでおり、共同研究では著者の中に企業の人間の名前を入れないことも多い。この場合は、謝辞で企業名を入れている。

SSDMを主催する応用物理学会では、共同研究か研究機関の単独研究かについての論文件数のデータはこれまで採っていないが、共同研究は増えている感触を得ているという。公立研究機関での企業との共同研究や国家プロジェクトでの共同研究は確実に増えていると、SSDM2012実行委員長の大森達夫氏は言う。

では、SSDMへの企業からの参加者の傾向はどうか。論文1件当たりの参加者数をグラフ化したのが図2である。大学や研究機関からの参加者は1論文当たり1.5名程度だが、企業からの参加者は同3.5名程度となっている。つまり、研究機関は論文の発表者ないしせいぜいその上司が参加しているのに対し、企業側は論文の発表者以外にも2〜3名が参加している。

図2 論文1件当たりの参加者数の推移 出典:SSDMのデータを元にセミコンポータルが加工

図2 論文1件当たりの参加者数の推移 
出典:SSDMのデータを元にセミコンポータルが加工


経費の節約に厳しい企業が発表者以外の社員を国際会議への参加のために簡単に出張させるとは思えない。これは、自社と共同研究している大学の発表を聞く、あるいはライバル企業の動向を探るためと考えれば、納得できよう。図2は共同研究の発表であることを間接的に表しているのではないだろうか。

大学や研究機関との共同研究は、低いコストで技術を開発するための一つの手段である。企業は資金を有効に使うためにこういった共同研究をますます増やす方向に行くだろう。ただし、共同研究の相手は日本の大学とは限らない。海外の大学もおおいに活用すればよい。優れた通信技術の研究で有名な英国ブリストル大学を訪問した時、日本の企業との共同研究が少ないことを嘆いた研究者もいた。海外の大学にも目を向け、共同研究の選択肢を広げることは企業を強くすることにもつながる。日本の大学も海外勢に負けないように頑張れば、さらに日本は強くなる。

SSDM2012は、9月25日(火)から27日(木)まで、京都の国立京都国際会館で開催される。今回は第44回である。

(2012/08/31)

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