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設計者を悩ませるノイズを解析、シグナルインテグリティを確保する現場の本

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カーエレクトロニクスは、昔からノイズとの戦いである。エンジンを回転させ、火花を飛ばすというクルマの構造上、電磁波は絶えず出てゆく。電気自動車になってもモータの回転は磁石のN極とS極を変えていく訳だから、やはりノイズは出る。半導体チップ側でも微細化技術が進むにつれ、電圧の減少と共に外来ノイズに弱くなる。

図 「見てわかる高速回路のノイズ解析」 技術評論社2012年6月発行

図 「見てわかる高速回路のノイズ解析」 技術評論社2012年6月発行


ノイズはいつまでたっても、試行錯誤的に退治してきた。カーエレクトロニクスだけではない。すべての電子機器がノイズと戦っている。携帯電話やスマートフォンでさえ例外ではない。通話バンド、Bluetoothバンド、Wi-Fiバンド、FeliCaバンド、ワンセグテレビバンドと多数の周波数に渡る受信器が1台の携帯電話に入っており、それらの間の干渉、すなわちノイズは当然ながら問題になってくる。

ノイズの影響を受けるのは無線回路だけでない。有線回路、半導体回路でも同じことだ。回路の配線がノイズを発したり受けたりするアンテナになっているからだ。デジタルICとアナログICを同一シリコン基板上に集積する難しさは半導体技術者なら嫌というほど知らされている。

では、ノイズを解決するため本を探そうとすると、現場のノイズの役に立つ本は意外と少ない。第1章でいきなりフーリエ変換から始まる教科書もある。数式だらけの教科書は概念を理解しにくい。物事を理解する上で本質的に重要なことは、まずその物は何であるかを明確にすることである。その後、概念を定量的に裏付けるために数式を用いるのであれば納得しやすい。にもかかわらず、いきなり数式という教科書はわかりにくい。こんな時に技術評論社から発行されたのが「見てわかる高速回路のノイズ解析」と題した本だ。

この本の売りは、現場に即したノイズ解析と、シグナルインテグリティを確保するための技術をわかりやすく解説した点だ。読後、この本を一言で表現するなら、現場主義の本、といえる。数式はほとんど使わない。概念をしっかり説明してくれる。

この本は元々、月刊誌「電子材料」を発行していた工業調査会が2002年に出版していた。それを著者である前田真一氏が加筆、修正した。この10年で高速回路は様変わりした。伝送路はパラレルバスからシリアルバスに変わり、伝送スピードは100MHzから数GHzへと変わった。送信されたパルス信号を受信する時の波形は歪み、単に伝送するだけでは元のパルス波形からはるかに崩れてしまうことが多い。それを崩さないでパルス波形を確保することをシグナルインテグリティと言う。インテグリティは忠実という意味の英語であり、信号を忠実な波形で受け取る技術をシグナルインテグリティ技術と呼ぶ。

この本は第1章から4章まであり、特に第1章はジッタやインピーダンス、集中回路定数、フーリエ変換、時間軸と周波数軸などの言葉の説明を丁寧に紹介している。この言葉の説明が実に平易でわかりやすい。2章のノイズの理論でも数式はほとんど使わずに、ノイズの種類やメカニズムなどについて説明している。第3章シミュレータとモデルでは、モデルを知らなければシミュレータの意味はわからないことをしっかりと教えている。最後の第4章は「なぜだろう、なんだろう」という見出しだが、ノイズに関係する言葉の説明と動作原理、メカニズムについて解説している。差動回路、配線のトポロジー、終端の意味と具体的な置き方、シリアルバスなど、最先端の電子回路の現場技術について述べている。

この本を熟読していれば、回路エンジニアとしての価値が高まると思う。電子回路には常にシグナルインテグリティを確保するための技術が欠かせないからだ。特に高速回路、アナデジ混載回路ではノイズ対策はマストである。技術者としての価値を作る上で役に立つ本といえるだろう。

(2012/05/25)

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