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米軍からの研究資金提供と民需目的のR&Dのあり方について考える

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「フクシマ」原子力発電所の状況探査にはアメリカ製ロボットが使われており、ロボット大国のはずの日本のロボットが使われなかった。米軍関係のロボットにはMILスペックで決められた信頼性の基準があるだけではなく放射線に強い半導体デバイスが使われているからだろうと推察する。SOS(silicon on sapphire)やSOIなど放射線に強い半導体チップは日本のロボットには使われていないようだ。

今回の大震災は国家の一大事であった。しかし、日本は原子炉建屋に入る実用ロボットを持っていなかった。放射線対策を施していない市販のマイコンしか積んでいなければ使い物にならない。軍事技術を促進せよと言うつもりはないが、劣悪な環境でも使える実用ロボットの開発や、あるいは判断能力を備えたもっと賢いロボットの開発など、軍事とは直結しなくても米軍が手掛けているような研究テーマに対して、いつまでも目をつぶる訳にはいかないのではないだろうか。

東京に支部を持つ米国陸軍研究開発技術司令部(RDECOM)は、研究フェーズから開発、試作、生産に至るさまざまな段階の技術を扱い、軍事技術とは直接関係のないテーマであっても資金を提供するといわれている。現実に、アフガニスタンの基地でマイクログリッドの施設を持っている(参考資料1)。出来るだけ化石燃料を使わず、ソーラーやバッテリを駆使しマイクログリッド電力網を形成し、昼夜利用する。もともとマイクログリッドやスマートグリッドは軍事技術ではない。しかし、軍事にも使える技術ではある。

2月にスペインのバルセロナで開かれたMobile World Congress 2011においても、携帯電話機のコーティング材料を開発・生産している英国p2i社の話を聞いたが、スマートフォンや携帯電話、タブレットなどの防水にピッタリの素材だとして展示ブースを出し、その効果を見せるためコーティングした紙としない紙を水槽に浸した後に採り上げるというデモを行った。このコーティング材料は軍事応用で開発したものだった。英国軍用の通信機や衣服を雨や湿気から守るという素材だ。

かつて、エレクトロニクス、IT技術は軍がリードし、その技術を民間へ降ろしてきた。コンピュータはミサイルの弾道計算するために生まれ、トランジスタは真空管に変わる固体増幅器を作ってくれという米国海軍からの要求で誕生した。インターネットは危険分散の意味でサーバーを全米に散らばせたDARPAネットがベースになっている。3G携帯電話の基本技術CDMAも盗聴されにくい軍事通信の拡散スペクトル技術から生まれた。今後のLTEやLTE-Advancedに使われるビームフォーミング技術も軍事技術から生まれた。アンテナ感度を上げるフェーズドアレイシステムも軍事技術が基礎にある。

1990年に東西冷戦時代が終結して以来、米国の政府支出に対する軍事予算の割合は冷戦前の23〜52%から16〜19%へと減少した(参考資料2)。2000年以降、軍事予算はむしろ少しずつ増えてきている。この予算を日本の大学に使ってくれとRDECOMが頼みこんでも拒否されるケースが多いと聞く。それも軍に直結しない研究でもかまわないと頼んでも拒絶される、とRDECOMのある人はいう。軍事アレルギーだろうか。日本の大学は米軍と聞いただけでアレルギーを起こし共同研究は持ってのほかと言われている、と嘆いていた。

有効に使うのであれば、米軍の研究予算を研究資金としていただくことはいけないことだろうか。みんなで考え直してみる必要があるだろう。この資金で例えば、「フクシマ」を一刻も早く救済するロボット技術の開発でもいい。このような事故を二度と起こさない、たとえ起きても素早く対処するために必要な資金に関して、借金まみれの日本政府にまた借金を迫るこれまでのやり方をいつまで続けるのだろうか。

参考資料
1. Army deploys microgrids in Afghanistan for 'smart' battlefield power
2. アメリカの軍需経済と軍事政策 (ウィキペディア)

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