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液晶ディスプレイの進歩のおかげでアモーファスSi太陽電池が次の大本命に

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Selete Symposium 2009に出席した。今回は基調講演として、元日立製作所副会長や元総合科学技術会議議員を務め現在日立製作所顧問の桑原洋氏の「日本の技術開発のあり方を変える」と、科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェローの田中一宜氏の「国際対応の研究開発戦略〜産学官独のアクションプラン〜」という二つの講演があった。いずれもキーワードは、グローバル化であり、日本の官が関与するシンポジウムでの発言として興味をひいた。

国家プロジェクトで唯一ともいえる成功例は田中氏によると「アモーファスシリコン薄膜太陽電池プロジェクト」だそうだ。1980年から1990年の10年間続けたプロジェクトだ。当時、私が勤務していた日経エレクトロニクスでも1982年にアモーファスシリコン特集を組んだ。アモーファスシリコン薄膜が太陽電池だけではなく、TFT(薄膜トランジスタ)や、撮像素子への応用、そして感光ドラムへの応用など、さまざまな応用が考えられ、産業としても広がっていくに違いないとの編集部の思いから、取材を始めた。田中氏へのインタビューは言うまでもなく、元三洋電機社長の桑野氏をはじめアモーファスシリコンを手掛けていた産業界から大学にまでの人たちに及んだ。田中氏の話を聞いてかつてのアモーファスシリコン薄膜の技術を思いだした。

アモーファスの太陽電池は電卓用電源として定着したが、産業的なインパクトはなんといっても液晶ディスプレイ用TFTに使われたことが大きかった。残念ながら太陽電池としては結晶系シリコンに負けた。効率が小面積で5〜6%どまりと小さく、結晶系の15〜20%には遠く及ばなかったためだ。効率だけを追求するのならシリコンではなくGaAs系の太陽電池が25%はあり、衛星にすでに使われ宇宙で活躍している。多結晶・単結晶シリコンの10〜15%という数字は日本の狭い住宅の屋根に置くにはちょうど良いサイズのパネルになった。アモーファスシリコンなら半分以下の効率だから同じ電力を発電するためには2倍以上の広さの屋根が必要になる。日本の住宅ではこの広さは到底受け入れられない。結局、アモーファスシリコン太陽電池は電卓にとどまった。

最近取材してみるとアモーファスシリコンでも10%近くまで効率は上がっているという。再び、発電用としてアモーファス太陽電池が見直されてきたのは、このためだ。アプライドマテリアルズがこの製造装置に力を入れていることはよく知られている。

アモーファスシリコン薄膜で最も大事な要素は面均一性である。20年以上前に5%という効率を得た薄膜太陽電池の大きさはわずか2〜3mm角で、10cm角にすると効率はとたんに落ち2%程度しかなかった。最近は1m四方の大きさでも7〜8%くらいあるという。アモーファスシリコンの面均一性技術は、液晶ディスプレイ技術によるところが大きい。今から20年以上前の1980年代中ごろでも10インチのTFT液晶ディスプレイの試作例はあった。しかし量産できるほどの均一性は乏しく、10インチ以上の大型TFT液晶ディスプレイの量産は無理だろうとまで言われていた。

今はそのような話はうっそーと思えるくらい50インチ、60インチの液晶ディスプレイが町の電気屋で売られている。アモーファスシリコン薄膜の均一性は格段に向上した。薄膜太陽電池の大本命は、色素増感型太陽電池やCIGSなどの4元系元素を使う薄膜・厚膜太陽電池ではない。アモーファスシリコンである。効率だけを見るなら確かに色素増感型は11%台にも行くだろう。しかし、均一性を改良するという未知の世界にこれから突入することになる。すでに手掛けているメーカーに面均一性の質問をすると、やはり最大の難問だと答える。

色素増感型太陽電池やCIGSなどの4元系元素の太陽電池を進めるメーカーをよく見ると、難しさをよく知っている半導体企業や液晶ディスプレイメーカーはそこにいない。石油化学メーカーであったり、自動車メーカーであったり、均一性の難しさをまだ認識していないメーカーが多い。

日本の半導体メーカーはGaAsというわずか2元の半導体デバイス、3元、4元系半導体のレーザーなどを手掛けてきたが、そのチップ面積は極めて小さい。0.5mm角とか0.25mm角といった大面積均一性を問題にしないデバイスが商用化されてきた。化合物半導体のエンジニアは均一性よく3元系、4元系半導体デバイスを作ることの難しさをいやというほど知り尽くしている。太陽電池では100cm平方というとてつもない大きさでの均一性が求められるのである。しかも3元、4元の元素を均一なストイキオメトリで均一な面積に作り込む。GaとAsの2元でさえ、蒸気圧が異なり、元素の重さが違うため、1対1のストイキオメトリを均一に作ることが難しかった。分子線エピタキシー(MBE)やMOCVDなど制御よく微妙に作り込める技術を使ってようやく小面積で均一な薄膜を作ることができた。

3元、4元の元素を使い、しかもその均一性を求めるという未知の世界を1社や2社で挑戦するには膨大なR&D投資と設備投資が必要となる。企業間の垣根を超えたオープンディスカッションは成功するための重要なカギとなる。しかし、石油化学業界、自動車業界は企業の枠を超えエンジニア同士が自由にオープンディスカッションを出来る体質ではない。

印刷で作れるという単純な理由で日経ビジネスをはじめとするさまざまな非技術系メディアが色素増感型太陽電池を大本命と持ち上げるが、私は決してそうは思わない。アモーファスシリコンこそ薄膜太陽電池の大本命だと思う。1元元素の単純構造でしかも均一性を求めて10年以上も量産してきた実績を買うからだ。シンプルイズベストである。

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