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広帯域ミリ波による物体検出で位置精度を上げ、応用を拡大

広帯域のミリ波レーダーを使った位置精度を上げる技術が可能になりつつある。総務省が60GHz帯で帯域を7GHzに広げる省令案を作成、実用化に向けて動き出している。広帯域にすると位置精度が上がるためジェスチャー操作などが可能になる。National Instrumentsは、79GHz帯で4GHz帯域の車両レーダーテストシステムを開発した。

図1 National Instruments社Transportation Business担当VP兼GMのChad Chesney氏

図1 National Instruments社Transportation Business担当VP兼GMのChad Chesney氏


総務省が60GHz帯での広帯域周波数の電波を許可するようになった背景には、新しい応用が出てきたことがある。直接画面にタッチしなくても手や体のジェスチャーだけでテレビやタブレットなどを操作できるモーションセンサや、人間のわずかな呼吸や心臓の動きを離れた位置から測定する生体情報センサなど新しいセンサを使えるようにするためだ。

これまでの24GHzなどの狭い帯域のミリ波レーダーでは物体の有無を検出するだけだった。レーダーから電波を発し、その反射波を見ていた。National Instruments社Transportation Business担当VP兼GMのChad Chesney氏によると、「24GHzでは、帯域が1GHzしかなく、何かあるという程度のことしか検出できなかったが、79GHzで帯域が4GHzも確保できれば、対象物が何であるかを検出できるようになり、距離分解能は20倍、速度分解能は3倍高まる」という。

レーダー波の帯域を4GHzや7GHzといった広帯域で使えるようになると、対象物の位置精度が上がり、対象物が何であるかを検出できる。しかも電波なので壁などを通過もできる。このため可視光のイメージセンサとは違い、プライバシーが侵される心配はなく、高齢者が家の中で倒れて動かなくなったかどうかは検出できる。クルマの車内に何人いるか、赤ちゃんが取り残されていないかどうか、は容易にわかる上に動いているかどうかもわかる。

クルマ用のLiDARではスキャンしながら対象物を検出しようとしているが、その分解能には限界があり、機械的に360度回転させるポリゴンミラーのような大きなシステムになる。レーダーでは対象物との距離精度が上がり、対象物が動いている速度の精度も上がる。レーダー波が対象物を検出するだけではなく、レーダーを発射するクルマと対象物との速度の違いによるドップラー効果を観測できる。

レーダー波の帯域を4GHzや7GHzと広げた電波の送受信システムをテストする手法をNational Instrumentsが開発した。このシステムをテストするのが、NIのVRTS(Vehicle Radar Test System)である。ここでは、周波数79GHzのミリ波で、その帯域幅4GHzまでのシステムを対象としている。

NIのテストシステムでは、76〜81GHzの周波数範囲をカバーしており、その中の4GHzを帯域幅とする。このため、従来の24GHzよりも、距離と速度の両方の分解能と精度が高まる。しかし、帯域幅が広がるとデータ量が増えるため、テストシナリオが増えていく。そこでVRTSのシミュレーション機能を使ってテストを改善していくことになる。

NIのVRTSは、再現性の良いレーダー反射断面積を使って角度ごとに二つのオブジェクトをシミュレーションすることができる。VRTSでは、ミリ波用のアップコンバータとダウンコンバータを持つ送受信機とPXIシステムからなっており、PXIシステムはPXIコントローラ、VST(Vector Signal Transceiver)、可変遅延発生器を搭載している。対象物を最短距離4mで検出、距離分解能は10cmとしている。

Chesney氏は、79GHzで長い距離を検出できるうえに同じコンポーネントが使えるためにコストを削減できるという二つのメリットがあるとしている。

(2019/12/12)

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