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組み込みMRAMを今年末にファウンドリ2社が生産開始

磁気スピンの向きで1、0を判別するSTT-MRAMが今年末から一気に加速しそうだ。Samsung Electronicsのファウンドリ部門と、ファウンドリのGlobalFoundriesは2018年末に組み込みMRAM(eMRAM)のリスクプロダクションを開始すると東北大学主催のCIES(Center for Innovative Integrated Electronic Systems)Technology Forumで発表した。

図1 Samsung Electronicsファウンドリ事業部、LSI PA Teamの首席エンジニアのYong Kyu Lee氏

図1 Samsung Electronicsファウンドリ事業部、LSI PA Teamの首席エンジニアのYong Kyu Lee氏


組み込み用のMRAMは、まず8Mビットという小容量から商用化するには、程良い容量であり、組み込み系ではプログラムメモリとデータメモリとしても使えるレベルであることを考慮したもの。Samsungはその用途をマイコンとIoT、そしてグラフィックやデータバッファなどのバッファメモリという3つを想定している、と同社ファウンドリ事業部、LSI PA Teamの首席エンジニアのYong Kyu Lee氏は整理した。そしてeMRAMを書き換え回数の多い高速の不揮発性メモリと位置付けている。

GlobalFoundriesは、ウェアラブルIoT、自動車エレクトロニクスが市場として存在し、MRAM単体ではデータセンターも狙えるとする。同社のEmbedded Memory-CMOS Platforms Business UnitのバイスプレジデントのDave Eggleston氏(図2)は、この中でもeMRAMの商用化が最も早く、そのあとにデータセンター向けが登場するとみる。最初の時期は2018年末だとしている。


図2 GlobalFoundries社 Embedded Memory-CMOS Platforms Business UnitのバイスプレジデントのDave Eggleston氏

図2 GlobalFoundries社 Embedded Memory-CMOS Platforms Business UnitのバイスプレジデントのDave Eggleston氏


現在のMRAMの実力は、読み出し、書き込み共25nsであり、セルサイズはNANDフラッシュと同じだが、書き込み速度が圧倒的に高い。リテンションは10年(信頼性加速試験からの見積もり)、読み出し/書き込みのサイクル(エンデュアランス)は10の8乗以上となっており、NANDフラッシュよりも性能的には超えている。一方、速度の点ではSRAM並みだがMRAMは元々不揮発性であり消費電力が少ないため、SRAMよりもさらに低い。加えてセル面積がSRAMの1/3以下と小さいため、コスト的に有利である。

eMRAM、例えばマイコンに組み込む用途では、フラッシュマイコンと比べ、高速書き込み、書き換え回数の多さ、高速の起動時間などがフラッシュマイコンよりも有利であり、マスク枚数もフラッシュと比べ3枚追加するだけで済む、とSamsung のLee氏はいう。

Samsungは28nmFD-SOI技術を使ったeMRAMを125°C高温保管と10年間のリテンション(保持)を保証した製品を作るプロセスを確立し、18年末にリスクプロダクションに入るとしているが、これまでもNXP Semiconductorと28nmFD-SOIプロセスのeMRAMのテストチップを開発してきたことがベースになっている。2016年のIEDMで28nmバルクCMOSプロセスの8MビットMRAMを発表しているが、今回のフォーラムでは28nmFD-SOIの8MビットMRAMを発表した。

スピンが自由に動く強磁性材料と、スピンを固定した磁性材料をトンネル酸化膜でサンドイッチした構造のMRAMは量産当時、トンネル酸化膜のショート不良が多かったという。しかし、製造しているうちに歩留まりが上がる習熟曲線に乗って今は90%以上の歩留まりを確保できるようになったとLee氏は述べる。これにより、150°Cでの高温保管試験や115°Cでの高温動作試験、105°Cでの保持(リテンション)試験をそれぞれ1000時間しても不良が出ず合格するようになった。書き換えのエンデュアランス試験は85°C、25°Cとも100万回をパスしている。

28nmのFD-SOI MOSFETのバルクやFinFETと比べ、fmax(パワーゲインが1となる周波数)、fT(電流増幅率hFEが1となるときに周波数)共、遮断周波数は高い。このためRFやアナログ回路に向くとLee氏は言う。またバッファメモリとして組み込みフラッシュと比べ、高速であり、消費電力は小さいが、リテンションとエンデュアランスを最適化する必要があるとして、その解決策も示している。

GFのEggleston氏は、MRAMが好まれそうな分野は2つあり、リテンション特性を重視するフラッシュに似た用途(-F)であり、もう一つは速度的に有利なSRAMのような用途(-S)だという。最初に-F用途、次に-S用途になろうとみる。

またマイコン用途は同じだが、IoT用途では、RFのIPも必要となるが、この用途では、eMRAM+RF+FD-SOI=キラーコンビネーションだと主張する。なぜか。IoT用マイコンの平均的な使用状態を分析したところ、動作の66%が待機状態、13%が検出、11%が通信、演算や起動が10%という結果だった。つまり待機時の電力が全体の電力に極めて大きく左右する。だから不揮発性メモリが必要、という訳だ。eMRAMはスリープ状態からの立ち上がりが極めて速いため、IoTにぴったりの用途といえそうだ。

AI応用では、脳の構造を即座に判断する時と、ゆっくり考える時の両方を持つとして、人間が怒っているときは即座の応答に相当し、何かを計算しているときはゆっくり応答にあたるという本を紹介、eMRAMの応用も、即座=リアルタイム動作としてIoTやマイコン、ゆっくり動作は正確さを示しデータセンターに相当するとした。即座は推論、ゆっくりは学習とする。データセンターではメモリ容量は音必要であり、かつ動作速度は速いSRAMのようなeMRAM-Sベースのアクセラレータなどの用途を想定している。

SamsungがNXPをパートナーとしていたことに対して、GFのパートナーはMRAM事業に参入したベンチャーの米Everspin社だ。256MビットのMRAM製品を量産しており、1Gビット品をサンプル出荷しているという。

eMRAMの微細化は10nmまではシミュレーションで動作を確認しているとGFのEggleston氏は述べており、7nmまでは行けそうだという感触もあるという。

(2018/03/23)

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