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コスト・パフォーマンスで考えるSiCデバイス〜Infineonの取り組み

「SiCパワー半導体の価値は、コスト・パフォーマンスで考えよう」。SiCのショットキダイオードやFETを、SiのIGBTと単価だけで比べるとSiCは高い。しかし、システムあるいはモジュールでのコストが安ければ、ユーザーには大きなメリットになる。もちろん性能は高い。Infineon Technologiesが考えるSiC戦略は市場原理に基づいている。

図1 SiCデバイスを開発してきたInfineon Technologies社SiCシニアディレクタのPeter Friedrichs氏

図1 SiCデバイスを開発してきたInfineon Technologies社SiCシニアディレクタのPeter Friedrichs氏


これまでの所、Infineonが考えるコスト・パフォーマンスは、SiのトランジスタとSiCのショットキバリヤダイオード(SBD)の組み合わせだという。「テクノロジーがベストだとか新しいとかではない」と、同社SiC部門シニアディレクタのPeter Friedrichs氏(図1)は述べている。同社は2002年からSiCのSBDを出荷してきており、システムレベルでSiC SBDのコスト・パフォーマンスについて検討している。

連続導通モードの400W力率改善(PFC)制御システムの例 (図2)では、トランジスタにSiのパワーMOSFETであるCoolMOS C3とSiCのSBDとの組み合わせと、従来のバイポーラパワートランジスタ+ダイオードの組み合わせを比べると、コストは8%削減できたと見積もった。CoolMOSとSiCのSBDの合計価格は上がったが、高速動作できることからスイッチング周波数を従来の140kHzから500kHzに上げることができ、その結果PFCチョークコイルを小型化できたためにコイルのコストが激減した。


図2 力率改善システムではSiCのダイオードを使う方が低コストに 出典:Infineon Technologies

図2 力率改善システムではSiCのダイオードを使う方が低コストに 出典:Infineon Technologies


同社はSiCのトランジスタとして、MOSFETとJ(接合型)FETの二つについて1992年から検討してきた(図3)。MOSFETは半導体表面チャンネルを電流が流れるデバイスであり、JFETはバルクを流れるデバイスである。MOSFETでは、表面チャンネルは表面の粗さや界面準位などによって抵抗が増加したり信頼性が悪くなったりするといった問題がある。JFETの電流はバルクだけを通るためそのような問題はないが、ノーマリオン動作 (ゲート電圧がゼロでも電流が流れるため、オフにするには逆バイアスが必要) が使いづらいといった別の問題がある。MOSFETかJFETか、Infineonは検討した。界面欠陥は初期不良だけではなく、デバイスが動作を続けている中で劣化していくという信頼性の問題に対して、専用のスクリーニング工程が必要となる。その結果、MOS界面の欠陥はそう簡単になくなりそうもない、と考え、JFETを推進した。


図3 MOSFETとJFETを比較検討 出典:Infineon Technologies

図3 MOSFETとJFETを比較検討 出典:Infineon Technologies


JFETのノーマリオン動作を解決するため、Infineonは入力ゲート回路を工夫して、逆バイアスされるような構成のドライバICを開発した(図4)。このICとSiの低耐圧pMOSFETをJFETのソース側に接続する構成によって、実質的にJFETをノーマリオフ動作できる回路を考案した。この結果、耐圧1200VでTO-247モールドパッケージに入れたSiC JFET製品をリリースした。さらに直接駆動できるICを内蔵したハーフブリッジモジュールも2014年中にリリースする計画だ。


図4 ドライブ回路を工夫、事実上のノーマリオフをJFETで実現 出典:Infineon Technologies

図4 ドライブ回路を工夫、事実上のノーマリオフをJFETで実現 出典:Infineon Technologies


同社は、ソーラーシステムへの応用として、3相インバータ構成で使う場合を従来のSi IGBTシステムと比較した。その結果、1200Vの高耐圧半導体を必要とする数は、従来システムでは12個のIGBTと12個のショットキダイオード、12個のドライバが必要で、SiCシステムではそれぞれ6個のJFETトランジスタと6個の低耐圧MOSFET、6個のドライバが必要であった。さらにスイッチング周波数は従来が16kHzに対して、SiCシステムでは32kHzに上げることができた。その分、コイルは小さくて済む。

(2014/07/10)

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