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日経、半導体製造の重要性を1面トップで紹介

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2月6日、日本経済新聞は、半導体製造の重要性を1面トップ記事で紹介した。「半導体、『持たざる経営』転機、台韓、生産シェア43%、有事の供給にリスク。」と題した記事だ。ここでは持たざる経営とは製造工場を持たない経営を指しており、ファブレス半導体もいいが半導体製造力を持つことが重要と指摘する。

残念ながら日本はかつて、「ファウンドリ事業は下請け」、と考えており、自社のブランド力を過信した。この結果がどうなったのかは多くの読者が知っている。ブランドよりも実質を重視する台湾ビジネスは、あれよ、あれよという間に大きくなり、今や「下請け」の声が発注主よりも強くなり、それどころか各国政府からも半導体を作って欲しいと嘆願されるようになった。直近の半導体トップテンランキングでも特にTSMCは3位だが、2位Samsungとの距離を詰めつつある。1位と2位の差よりも小さくなっている。

台湾の実を取る戦略は元々、パソコン事業から始まった。1980年代半ばにパソコンはこれからの重要産業になりうると考えた台湾当局は、バナナからパソコンへを合言葉にパソコン製造に力を入れた。当時Hewlett-PackardやCompaq、IBM、Dellなどのアメリカ企業のパソコンを組み立て製造していたのがAcerや鴻海精密工業などのEMS(電子機器の製造請負サービス)だった。Acerはやがて自社ブランドを持つと共に、ASUSやBenQなどを独立させ(Acerの資本も入れない)、巨大なパソコン関連産業を作り上げた。

1990年前後に半導体でも同様なビジネスを始めたのがTSMCのMorris Chang氏だった。1980年代中ごろから米国のシリコンバレーで続々と生まれるファブレス半導体を見て、製造専門のビジネスをやろうとした。当時日本はDRAMで強かったからDRAMはやらないという空気が台湾では強かった。UMCはDRAM以外でどのような製品でビジネスすべきかを模索していたが、TSMCのファウンドリビジネスを参考にしてここに参入した。

最近の車載用半導体不足で日本、米国、欧州の各国政府が台湾を訪れ、TSMCへの増産を要請した。台湾当局はTSMCやUMCなどのファウンドリ企業から話を聞き、増産を依頼した。2月6日の日経は「デジタル化の進展で半導体の重みが増す中、十分な能力を備えた生産会社を持たない国はいまやその国の産業力を高められないリスクを負う。自動車メーカーは販売回復下での生産調整を余儀なくされている」と報じており、米国が最近製造力を強化しようという声(参考資料1)を、日本でも上げることが求められている。

ルネサスエレクトロニクスを取材すると、これまで通り28nm、16nmの製品はTSMCに依頼しており、不足を感じていない、という返事で、40nmまではルネサスの工場で従来通り作っているという。IDMとしてのメリットを今受け取っているようだ。

一方で自動車市場には、これまで市場に参入していなかったIntelやXilinx、Qualcommなど情報系の企業がADAS(先進ドライバ支援システム)チップや物体認識のAIチップを携えてOEMやティア1サプライヤに売り込みをかけている。すでにこれらのチップを採用したところもある。

ところが自動車産業は昨年の4月ごろに新型コロナによるロックダウンの影響を受け生産ラインを休止した。最初のロックダウンを解除した武漢におけるコロナの影響を見ながら、OEM(自動車メーカー)は徐々にラインを回復させ始めた。ようやく回復レベルが元のレベルに追いついたかと思いきや、今度は半導体供給不足と言われるようになった。日本の半導体流通の世界では、供給不足になりそうだと思うと、二重に発注するところが多い。このため必要以上に半導体が不足するのだ。同じことが2017〜18年のメモリバブルでも起きている。回復までには半年以上かかる。

加えて、自動車産業は、在庫を持たないJust-in-time方式で生産しているため、これまでの機械産業では、最終的に小さな町工場にネジ・釘の類の部品を発注しても数日〜十数日で届けることができた。しかし半導体はそうはいかない。通常はウェーハ投入から完成まで3〜4ヵ月程度かかる。さらに自動車は、これまでの機械部品中心からシリコン中心へと変貌している。半導体重視の傾向はますます強まる。事故削減の決め手になるからだ。機械だけに頼ると金属疲労、摩耗疲労に必ず出くわす。電子回路はそれがない。

こうなると、自動車メーカーはこれまでの在庫を持たない経営を見直さざるを得なくなる。半導体不足を感じていない自動車メーカーは半導体流通業者が二重に発注してくれたおかげである。いつまでも流通業者に頼るわけにはいかない。結局は自動車メーカーが生産モデルを見直すしかない。

半導体産業は、こうした自動車産業とは別に、中途半端なIDMではなく、しっかりと製造専門のファウンドリを各国で強化することがリスクを避ける道でもある。日本に欠けているファウンドリを下請けという意識ではなく、半導体製造に自信を持つことが日本に求められている。

参考資料
1. 米国が強化する半導体製造 (2021/01/21)

(2020/02/08)

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