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アナデバのリニア買収と中国紫光集団のXMC買収の裏を読む

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世界の半導体産業の再編を示す出来事が、先週2件起きた。一つは米国企業同士の合併だが、ボストン近郊にあるAnalog Devices社(ADI)が、西海岸シリコンバレーにあるLinear Technology社(LTC)を、148億ドルで買収することで合意した。もう一つのニュースは、中国のファウンドリ企業XMCを同じ中国の国営ファンド紫光集団が買収、NANDフラッシュ生産を支援するというもの。東芝への影響もある。

ADIとLTCは共に日本法人があり、日本のICユーザーにとってもなじみ深い企業だ。ADIはA-D/D-Aコンバータなどのデータコンバータに強く、LTCは工業用の高性能なパワーマネージメントに強い。両社とも重なる製品は少なく、合併により補完関係が生まれ、顧客のシステムに合ったさまざまなICを提案できるようになる。共に財務は極めて健全で、売り上げに対する営業利益率は、30%〜40%と高い。例えば、この2月〜4月末でのADIの四半期の売り上げは7億7900万ドルで非GAAPオペレーティングマージンは30.8%、LTCの7月3日終了の四半期の売り上げは3億7380万ドルで、純利益が1億3240万ドルでその純利益率は35.4%と高い。

ADIは、最近になってワイヤレス通信に欠かせないマイクロ波技術を持つHittite Microwave社を買収、データコンバータを活かして、「アンテナからビットまで」という戦略をうたうようになった(参考資料1)。ワイヤレス時代にアンテナからデジタルまでIC化して調整(チューニング)の不要な回路ができれば、ワイヤレス技術はますます使いやすくなり発展できる。ADIのICにいきなりデジタルのマイコンやCPUなどをつなげられるようになれば、アナログの知識がさほどなくても、デジタルの組み込みシステムを容易にネットに無線接続できるようになる。

片やLTCは高性能なICを売りにしており、最近では電気自動車のバッテリマネージメントICというヒット商品を生み出した。これは、直列・並列接続するリチウムイオン電池のバラつきを減らし、十分とらざるをえなかったマージンを減らすことができ、走行距離を伸ばすことのできるICである(/archive/editorial/technology/design/121109-ltc.html参考資料2)。同様なEV用のバッテリマネージメントICをさまざまなアナログICメーカーが後追いするようになっている。そのLTCも製品ポートフォリオを広げるため、数年前にDust Networksを買収した。この会社は、ワイヤレスセンサネットワーク、すなわち工業用IoT(Internet of Things)で化学プラント向け、列車向けなどで実績を積んできたベンチャーで、メッシュネットワークをセキュアにするシステムを開発している(参考資料3)。

両社の合併で目指すものは、二つあるだろう。一つは、重なる製品が少ないことから、互いの製品ポートフォリオを広げることができるという点だ。RFからデータコンバータ、さらにパワーマネージメントとIoTセンサネットワークデバイスまで持つことになる。ADIはそれほど強くないが、マイコンとDSPも持っており、デジタル信号処理もカバーできる。

もう一つは、やはり打倒TI(Texas Instruments)である。2015年におけるTIの売り上げは83億ドル(参考資料4)。2位のInfineonは28.9億ドル、3位Skyworksが27億ドル、4位ADIが26.7億ドル、LTCは第8位で14.4億ドルとなっている。ADIとLTCを単純合計すると41.1億ドルとTIの半分まで追いつく。TIがこれまでアナログにフォーカスすると決めてからは、Burr Brown、Chipcon、そしてNational Semiconductorなどを買収してきた。自社が持っていないアナログを強化するためだ。TIはアナログICで300mmのプロセスラインをテキサス州に持っている。TIも30〜40%の利益率を確保してきた。

中国の紫光集団が同じ中国のXMCを買収するというニュースは、中国製のNANDフラッシュを作るためだ。XMCはこれまで、300mmウェーハでファウンドリサービスに力を入れてきたが、ファウンドリとしての力量は低い。むしろこれからメモリに進出しようと表明している。NANDフラッシュメモリ市場は、これからも伸びる余地は大きいが、そのためには巨額の投資が必要になる。紫光集団は数兆円に上る投資金額を持っているといわれており、XMCへの投資となったようだ。紫光集団はその前にMicron買収を表明したが、米国政府から待ったがかかり断念したという経緯がある。

NANDフラッシュの新勢力は東芝のライバルになる。東芝は対抗手段を具体的に検討する手段が求められる。

参考資料
1. RF強化で「アンテナからビットまで」戦略を実現するADI (2016/01/08)
2. リニアテクノロジー、バッテリ管理ICの精度を上げ、低コストEVを目指す (2012/11/09)
3. LTC傘下のダストネットワークス、WSN用半導体とモジュールを日本市場へ販売 (2013/02/15)
4. 2015年のアナログICランキング、やはりTIがダントツ (2016/06/01)

(2016/08/01)

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