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東芝メディカルの売却を巡る動きが活発に

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東芝メディカルのキヤノンへの売却が内定したという報道が先週あった。3月10日の日経産業新聞が東芝の視点でこの売却を論じ、11日の日刊工業新聞はキヤノンの視点で東芝メディカルを買収することについて議論している。一方、日立製作所の医療部門の日立メディコがカナダの化合物半導体メーカーRedlen Technologiesと提携することを発表した。

東芝メディカルはCT(コンピュータによる断層撮影装置)スキャナーが得意で、MRI(磁気共鳴画像処理装置)や超音波診断装置も製造している。CTスキャナーの国内シェアは50%程度、世界でも20%台を得ているという。CTスキャナーはX線を照射し、360度に渡り体の断面画像を撮影し、それらを合成して「輪切り」の画像を得る装置。このためX線検出器が大量に必要で、旗艦モデル「アクイリオン・ワン」には320列あると報じている。画像合成や画像処理には半導体チップが必要だが、これについては述べられていない。某社のMRI内蔵の放射線治療機を取材した時は、ディスクリート半導体が多く、ロジックを組むのにFPGAを使っている程度であった。少なくとも専用カスタムASICは使っていない。

医療機器には、厚生労働省の認可と医師の認定が必要である。例えば、Apple WatchやFitBitの製品が体温計や心拍計を付けたとしても、医師がその機器を信用しなければ体温計でさえ『医療機器』として認定されない。認定するためには従来の機器との相関や、様々な実験条件でのデータなどを積み上げる必要がある。人の命に係わる機械だからだ。このため、医療機器分野に初めて参入する企業が厚労省・医師双方から認定を受けるのにとても長い時間がかかり、そう簡単ではない。そこで、実績のある企業を買収することで認定期間を短縮できる。

今回、東芝メディカルを売却することに対して産業界では反対する意見も多い。利益が出ている部門だからである。しかし、東芝の財務状況はそう楽観的ではない。10日の日本経済新聞が報じているが、このまま売却しなければ2016年3月期末には、財務の健全性を示す自己資本比率は2.6%にまで下がる。自己資本比率は、自己資本を総資本で割った指数であり、この数字が低ければ経営の主体を他人に握られることを意味する。一般には40%くらいが健全だと言われている。自己資本比率が限りなくゼロに近ければ、自分で経営できなくなり、倒産に近づく。東芝は、医療部門の売却により、自己資本比率を10%まで回復できそうだと日経は報じている。東芝は、会計不祥事の影響で市場からの資本調達が難しくなった。東芝メディカルの売却は、東芝がまさに背に腹は代えられない状況に追い詰められていることを示している。

買収する側のキヤノンは、プリンタのカートリッジ事業が利益の要になっている。カメラ市場が成熟し、リーマンショックからの回復以降、同社の売り上げはほぼ横ばいの状態が続いている。医療機器事業では比較的簡単な眼科診断装置やX線画像撮影装置など小さな機器を手掛けてきた。11日の日刊工業によると、医療機器事業の売上額は1000億円に満たない。ここに東芝メディカルを手に入れれば、売上額は一気に伸びる。東芝のヘルスケア部門の売り上げは2015年3月期に4125億円だった。

日立製作所の子会社の日立メディコは、光子計数型CTと呼ばれる新しい断層撮像装置の開発で、カナダのRedlen Technologiesと提携したと7日発表した。光子計数型CTは、X線を照射して人体から発生する光子エネルギーを計測するのにあたり、低いエネルギーと高いエネルギーをそれぞれ検出することで、特定の組織に含まれるがん細胞など病変の画像を鮮明にするために使われるようだ。Redlen社は、CdZnTeといった特殊な半導体検出器を手掛ける半導体メーカー。CdZnTeは、シリコンの検出範囲とは異なるエネルギーを検出するのに使う。少ないX線被ばく量で鮮明な画像を得られれば、患者の負担は少なくなる。日立はCTスキャナーで必死に追いかけているようだ。

医療機器は医師、厚労省の認可が欠かせない分野であり、閉ざされた分野ともいえる。半導体のLSI化はあまり進んでいない。参入バリヤは高いが、未開発の市場である。

(2016/03/14)

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