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SanDisk買収の影に中国ファンドあり、もはや東芝だけの問題ではない

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今日19日の日刊工業新聞では、東芝の四日市工場内にNANDフラッシュのラインを設置しているSanDiskの身売り報道に対する東芝の影響を議論している。SanDiskはある銀行に事業売却の可能性を検討させているという報道は、シリコンバレーのサンノゼマーキュリーでも報じられた。

ちょうど先週、シリコンバレーにいてこのニュースに出くわした。SanDisk買収に名乗りを上げたのはMicron TechnologyとWestern Digital。ハードディスクメーカーのWestern Digitalは、ポストHDDとしてのNANDフラッシュメモリを使ったSDD(半導体ディスク)やNANDフラッシュアレイ装置を設計製造可能な企業である。NANDフラッシュの用途がモバイルからデータセンターのサーバーやストレージデバイスへ移りつつある。機械的に動かすHDDよりは電子的に動かすフラッシュの方が高速なためだ。SanDiskの買い手がMicronかWestern Digitalかは、まだ決まってはいない。両社は公式的にアナウンスもしていないため、まだ噂の域を出ていない。

買収のカギは、実は中国の政府系ファンド、紫光集団が握っている。紫光集団はMicronに230億ドルで買収提案しているが、この買収はまだ足踏み状態にある。というのは米国政府が中国ファンドによるMicro買収を認めないだろうという観測が流れているからだ。そこで、紫光集団は台湾を通じて、Micron買収の外堀を埋めようとしている。まず、Micronが出資している台湾のInotera Memoriesの会長であり、Nanya Technologyの社長(President)でもあるCharles Kao(高啓全)氏を紫光集団に引き抜くという作戦だ。Kao氏を紫光集団の役員に就任させ、台湾のNanyaとInoteraをMicron傘下に収め、地歩を固める。InoteraはMicronの株式35%を持つ子会社であるため、Kao氏はInoteraの会長であると同時にMicronの役員でもある。

中国は、DRAMとNANDフラッシュの生産はしていないが、消費は多い。全DRAM市場の21.7%、全NANDフラッシュ市場の25%を中国が占めている(参考資料1)。このため中国としてはDRAMとNANDフラッシュを自国に持っていたいと考えている。Micronはこの内、DRAMは旧エルピーダの工場を持っているが、これまでエルピーダを買収してからほとんど投資してこなかったため、需要が伸びているモバイルDRAMではMicronの一人負け状態になっていた(参考資料2)。そこで、12日の日本経済新聞が報じたように、今後1年間で1000億円を投資することを決めた。

紫光集団は、Western Digitalに対して先月、38億ドル出資した。SanDiskの買収にはWestern Digitalが欲しいというより、紫光集団が欲しいのであろう。さらに紫光集団はMicronへの出資を次第に高めていくという作戦も採れる。

SanDiskの時価総額は126億ドルである。Micronが買うにせよ、WDが買うにせよ、2兆円を超す資金を持つ中国ファンドがバックに控えている。紫光集団はMicron買収を実現できなくても、Micronの株を買い、ある程度の発言権を得ることはできる。実質的にSanDiskを手に入れることになれば、東芝はどう出るだろうか。

SanDiskを買う、Micronと提携する、見守る、さまざまな選択肢があるが、これは真剣に考えなければならない、東芝の未来を左右する重大な事件である。

しかも、これは東芝だけの問題ではなく、日本政府のファンドである産業革新機構の問題でもある。中国投資ファンドに東芝四日市工場が丸裸にされることに日本ファンドが黙っているのだろうか。

参考資料
1. Chairman of Inotera Memories Could Give a Big Boost to China’s Semiconductor Sector by Joining Tsinghua Unigroup, Says TrendForce (2015/10/06)

2. Micron(旧エルピーダ)、モバイルDRAMでHynixに離される (2015/08/18)

(2015/10/19)

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