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東芝NANDフラッシュの研究データ持ち出し事件を考える

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東芝の半導体メモリに関する技術情報を、東芝の提携先であるSanDisk元社員が持ち出したとして逮捕された。今回の事件の第1報は、13日の日本経済新聞夕刊に掲載された。その後、事件は明らかになってきた。これは、企業秘密を持ち出し、競合企業に提供するといった産業スパイ行為そのものである。

14日の日経朝刊は、元社員がNANDフラッシュメモリーの資料を韓国のSK Hynixに流出させたとして、不正競争防止法違反の疑いで警視庁に逮捕された、と報じた。元社員は「間違いありません」と容疑を認めているという。逮捕容疑は、SanDiskの技術者として東芝の四日市工場に勤務していた2007年4月〜2008年5月、東芝のサーバーにアクセスしてNANDフラッシュの研究データを記録媒体に無断でコピーし、2008年7月ごろ、転職先のSK Hynixに提供した疑い。東芝は2013年7月に元社員をこの容疑で告訴していた。警視庁はその裏付けをとるため今日に至ったのであろう。

東芝は、SanDisk社と共同開発・共同生産しているNANDフラッシュ技術に関する機密情報について、韓国のSK Hynixがこれを不正に取得・使用しているとして、不正競争防止法に基づき損害賠償等を求める民事訴訟を13日、東京地方裁判所に提起した。同じ日に、米国SanDisk社は、韓国SK Hynix社と米国SK Hynix America社に対する民事訴訟をカリフォルニア州サンタクララ高等裁判所に提起した。

この事件の裏側には、日本の技術者がアジアの企業に再就職することがあると、この週末のテレビで報道していた。14日に面会した、ある台湾企業の人たちとディスカッションしたところ、日本の技術者は他の韓国企業に就職して似たようなことをやっているのではないか、という疑問を彼らは持っていた。

しかし、この事件と「海外企業への再就職」とは明確に区別されなければならない。新規事業を会社に提案したが、受け入れられなかったために起業したり、別の会社に転職したりすることは、犯罪ではない。職業選択の自由という憲法に保障された行為である。今回の事件ははっきりとした犯罪であり、企業秘密を外部に持ち出し、競合企業に流したものである。

企業内で知りえた情報を紙や電子データなどの媒体を使わず覚えている範囲で話すことまで、会社は規定できないが、会社と個人との間で、例えば2年間はライバル会社に転職してはならないという取り決めを交わしている企業はある。社員の就業時間以外のアルバイトや副業を禁ずるところもある。しかし、実質上それを防ぐことが難しい。あくまで企業人としての倫理を持っているかという基準で、人物を評価することになる。元の企業のことをベラベラなんでも話す人間は、要注意とみなされる。同じことを他の企業に移った時にも同様に話すだろうと見るからだ。

企業が副業禁止を明確にうたっていない場合は問題である。1990年ごろ国内半導体メーカーの技術者が土日のアルバイトで韓国のサムスンに稼ぎに行ったことがあった。毎週ソウルへ行き、40〜50万円の月額報酬を受け取ったことはこの業界ではよく知られている。しかし、今や韓国企業は実力を付けており、日本のエンジニアを雇っても吸収することは少なく、1〜2年で追い出されるケースがよくあるようだ。

東芝は、MRAM技術ではSK Hynixと業務提携している。MRAMはNANDフラッシュとは全く別の技術であり、未来の技術への開発投資を軽減する意味で共同開発している。むしろ、SanDiskと同様な位置づけと見られる。もし、MRAM技術をSK Hynix以外の企業に持ち出す人間がいるとすれば、注意を払う必要がある。

シリコンバレーでは、技術流出は日常茶飯事である。だからこそ、新技術を次々と開発し真似される間に、さらに次の製品を開発してしまうという作戦を採る。逆に言えば新技術、イノベーションが起きなければ、シリコンバレーのようなやり方はできない。技術流出を問題にするのは、イノベーションが起きていないことの裏返しかもしれない。

(2014/03/17)

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