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これから再起動をかける、東大を退官する桜井貴康教授

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半導体が大きく変わりつつある。これまではチップを売ってきたため、チップの持つ微細化技術や機能などを訴求していた。だがチップの機能を説明するだけでは理解されず、チップをボードに搭載しPCやRaspberry Pi、Arduinoなどと直結できるところまで示すことが必要になってきた。Intel、Xilinx、Nvidiaなどはボードで販売するが、国内でも小型ボードに作り込んだIoTデバイスを、東京大学の桜井貴康教授(図1)が示している。

図1 最終講義で講演する東京大学桜井貴康教授

図1 最終講義で講演する東京大学桜井貴康教授


例えば、Intelの3D-Xpointメモリは、Optaneという製品ブランドで販売されるようになっているが、これはメモリボードあるいは装置の形で販売される。しかも同じ3次元セルのメモリチップでありながら、一つはSSD向け、もう一つはストレージクラスメモリ(Intelはパーシステントメモリと呼ぶ)向け、とボードや装置を変えることで区分けしている。もちろん、仕様が違い、メモリシステムとしての性能も違う。

桜井教授は「LSIはアプリケーションまでシステムを作らないと価値にならない」と言う。LSIでできる機能を実際に示すためには、チップをボードに実装して、チップでできることを示さなければ理解されない。チップへの設定を変えるとどうなるか、その結果を示すことでLSIの機能を理解できる。そのための一つの方策として、彼はトリリオンノード・エンジンと呼ぶ、汎用ボードコンピュータを作った。

桜井教授は、3月15日に東京大学生産技術研究所のコンベンションホールで退官記念講演を行っている。その最終講演では、タイトルが「集積エレクトロニクス、リブート(Rebooting Integrated Electronics)」と題した意欲的なものだった。東大を退官されようとしている人がこれから再起動をかける、という題名なのである。高齢化社会では、定年になっても新たに仕事を始める教授は桜井氏だけではない。昨年やはり停年になった東京工業大学の松澤昭教授(当時)もテックイデアというベンチャーを起こし、アナログ技術開発に力を注いでいる。

桜井教授が作った、1辺がわずか2cm程度の四角いコンピュータボードは、トリリオンノード研究会というコンソーシアムにおいて標準となるボードの一つで、リーフ(葉)と呼ばれている。マイコンを搭載したリーフの他に、各種のセンサを載せたリーフやLCDを載せたリーフ、電源を載せたリーフ、Wi-FiやBluetooth LEといった通信機能を載せたリーフ、などさまざまな機能の基板がある(図2)。これらを搭載し、マイコンソフトを書けば、IoTデバイスが出来上がる。例えば、通信機能なら直接基地局へ送信するLoraやLPWAなどの広域通信に拡張することも可能だ。要は、IoTを実証できることだ。


図2 トリリオンノード研究会で用意するリーフの一例 出典:トリリオンノード研究会ホームページ

図2 トリリオンノード研究会で用意するリーフの一例 出典:トリリオンノード研究会ホームページ


同氏はこのような小型のリーフは、IoTシステムだけではなく、デジタルトランスフォーメーションや教育ツールとしても有効だと見ている。つまり、このプラットフォームは、社会の課題を解くために使い、応用次第では全く新しい産業を育てていくことも可能になる。このリーフを一つの応用のプラットフォームとして、ハード基板を追加したり、ソフトウエアを書き換えたりして自分の好きな仕様に変更できる。これによって、自分が持つアイデアを実証(PoC: Proof of Concept)することができるようになる。また、専用機を作るよりもはるかに低いコストで製作できる。

アイデアを実証するのに、この小さなリーフを何枚か用意して、実装しやすい形にもっていくこともできる。例えば、リーフをマイコン、通信、電源、センサ類の4枚を重ねてサイコロの形に実装してもよいし、またリジッド基板を柔らかいフレキシブル基板で接続し、リジッド・フレキのハイブリッド基板で腕時計タイプにウエアラブルデバイスに実装することもできる。

桜井教授は、トリリオンプロジェクトとは別に、これまでのエレクトロニクス技術を振り返り、今後の進展への夢として、モデル作りを自動化できないものかと期待している。四則演算と対数(log)、サイン(sin)、コサイン(cos)、タンジェント(tan)などを入力しておくと自動的に解を求めるモデルが出力される、というような仕組みを想定している。

このようなツールや、リーフ型のプラットフォームを通じて、社会の課題を解決するため、さまざまな異分野との連携や、MCPC(Mobile Computing Promotion Consortium)をはじめとする他のコンソーシアムとの連携を結び、活動を広げている。

(2019/04/17)

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