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「三菱電機の強みは半導体を作っていること」

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「三菱電機の強みは半導体を作っていること」。こう述べるのは、同社社会システム事業本部長で常務執行役の菊池高弘氏(図1)。公共事業と交通事業を担う部門のリーダーである同氏は、SiCパワーMOSトランジスタを交通システム事業の海外戦略における重要なコア製品だと位置付けている。

図1 三菱電機社会システム事業本部長 常務執行役の菊池高弘氏

図1 三菱電機社会システム事業本部長 常務執行役の菊池高弘氏


三菱電機は、電車などの交通システムの車両そのものは作っていないが、車両に使うインバータや補助電源装置、モータなどの電機品を手掛けており、この分野では世界第4位の売り上げだという。1位カナダBombardier(ボンバルディア)、2位ドイツSiemens(シーメンス)、3位フランスAlstom(アルストム)に次ぐ。2020年までに電機品事業で世界のトップに立つという目標を掲げ、海外売り上げ増強に力を入れている。

世界トップになるための切り札がフルSiCインバータやフルSiC補助電源だという。フルSiCとは、スイッチングトランジスタも逆向きダイオードもSiCで構成された素子のこと。半導体業界ではSiCは高価だから、なかなか量産にならないという見方が強い。しかし、電車車両ビジネスでは、高効率で大電力を扱うSiCパワー半導体は装置の小型化・省エネ化だけではなく、メンテナンスコストを下げるというメリットもある。装置システムとしてみれば、SiCを使えば安くなるのである。ウクライナの首都キエフを走る車両に向けに納入済みであり、米国ニューヨークのロングアイランドを走る電車にもSiCショットキダイオードとSi IGBTとのハイブリッドだが、納入が確定しているという。さらに小田急への納入も決まっている。

電車では、「走る・止まる・速度制御」が欠かせないが、半導体が使えない時代には抵抗制御で行っていた。しかし、止まる場合は電気を抵抗で消費させることで、捨てていた。このため、まずチョッパ方式のサイリスタを使うことで直流モータを駆動し、省エネ化を果たした。しかし「メンテナンスが大変だった」(菊池氏)ため、ゲートでオンオフできるGTO(ゲートターンオフサイリスタ)を使う交流モータに変わった。しかし、ゲートのオンオフに使う電流が大きすぎた(電流増幅率が小さい)ため、回路が複雑になった。そこで、GTOに代わり大電流を取り扱えるようになったIGBT(絶縁ゲートのバイポーラトランジスタ)へと変わっていった。IGBTは、パワートランジスタと同様にゲート電圧のオンオフだけで大きな電流を切り替えられるため、回路は簡単になった。ところが、IGBTはバイポーラ動作のためスイッチング速度を上げることはできない。少数キャリヤの蓄積効果のため、オフ時になかなかオフしないテール電流がしばらく残るからだ。

そこで最近注目されているのがSiCのFETである。FETはバイポーラと違って少数キャリヤを使わないため、高速スイッチングができる。このため、周辺回路のコイル(インダクタあるいはリアクタとも言う)を小さくできるというメリットがある。SiC MOSトランジスタの価格だけを見ると高いが、コイルが小さくなる分コイルコストは安くなり、しかもデバイスの損失が少なくなるため、回生できる電力を大きく取れる。加えて、メンテナンスコストはかからない。トータルではSiCのシステムの方がシステムの運用コストまでも含めたシステムコストが安くなるという。

三菱は最近、インドのバンガロールにも車両向け電機品工場を建設することを決めた。鉄道需要がインドで高まることを見越した判断だ。投資金額は9億円、2015年12月の稼働を目指す。これにより、インド市場での交通システムの売り上げを2014年度の100億円規模から2020年には200億円へと倍増させることを目指している。海外に工場を作る場合でも半導体は日本で作る。車両交通ビジネスでは、メイドインジャパンを高く評価するため、部品の現地生産・現地調達が必ずしも望まれている訳ではない、と菊池氏は語る。

(2014/12/05)

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