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ザインがQualcommにV-by-One®HS技術をライセンス、株価がストップ高

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国内ファブレス半導体ベンチャーの草分けであるザインエレクトロニクスが、Qualcomm Inc.の子会社であるQualcomm Technologies, Inc.に対して、V-by-One®HS技術をライセンスした、というニュースリリースが3月3日に流れた。その途端、ザインの株価は大きく上昇、すぐにストップ高で取引停止となった。

ジャスダックでは、前日(2月28日)ザイン株の終わり値が1324円だったが、週明けの3月3日(月)には午前9時に1294円から始まり、13時には1624円という高値になり、取引を停止した。Qualcommはモバイル半導体技術のトップメーカーであり、その企業がザインのビデオ伝送技術V-by-One®HSのライセンスを供与されることになる。

そもそもV-by-One®HS技術とは何か。ザインでは、LCDディスプレイに動画を表示するための伝送技術LVDS(Low Voltage Differential Signaling)を持っている。これは差動回路でビデオ信号をディスプレイに送るための技術であり、サムスンを大ユーザーとしていた。主な用途はテレビである。今やテレビはデジタル化され、映像信号、音声信号ともデジタルでディスプレイ側に送られる。そのビデオ・オーディオ信号をシリアルに送るための規格がLVDSである。

テレビなどの機器では配線本数は出来るだけ少ない方が良い。配線が多数あるとスパゲティが絡んだようになる。このため信号配線はパラレルからシリアルの配線へと進化してきた。パラレルからシリアルデータに変換するためには高速で送り出さなければならない。V-by-One®HSは、従来のLVDSでは追いつけないほど高解像の画素数、例えば4K2Kなどの画像を表現する画素数に向いた技術なのである。LVDSだと1Gbps未満の実力だが、V-by-One®HSの最大転送レートは4.00Gbpsと速い。

これまでは、4K2Kといった高解像度のテレビや、やはり高解像度を必要とするMFP(多機能プリンタ)などに使われ始めていた。テレビでは画像処理エンジンからディスプレイに画素データを送出するという用途が多かった。MFPやパチンコのようなアミューズメント機器でも使われていたが、これらはノイズを多く発生する機器であった。V-by-One®HSシリアル伝送は、ノイズに強い技術が必要だとして使われてきたという。

V-by-One®HS技術を使ったICチップでは、プリエンファシスといった等価技術(信号を送る過程で劣化してしまう信号の一部を予め強めておき、受信端での信号が設計通りの強さを得るための技術)を集積している。加えて、クロックをデータと一緒に送り込むため、パラレル配線で問題だったデータを受信するタイミングのバラつき(クロックに合わせてデータが送られるためクロックスキュー『clock skew』という)がないというメリットがある。受信した後に、クロックとデータを分離するためのCDR(clock data recovery)回路を集積している。

4Gbpsのデータレートで動作できるV-by-One®HS技術が、DisplayPortやHDMI-2といった規格と異なる点は、機器内の配線に使われる技術だという点だ。モバイル端末ではMIPI規格に沿った内部バスが使われており、モバイル端末から外部のテレビに映像を映し出す場合にはDisplayPortやHDMI-2などのバスを使う。テレビやMFPの内部バスとしてV-by-One®HS技術が使われている。

ただし、V-by-One®HS技術の用途から見て、消費電力はさほど小さくないようだ。テレビやMFP、パチンコなどはモバイル機器とは違い、数W以下の電力では済まない。数十W〜100Wが常識だ。100W以上かもしれない。

こういった用途でQualcommはなぜ、このシリアルインタフェース技術を欲しかったのだろうか。ライセンス契約内容まで踏み込むことはできないが、Qualcommは基地局内あるいはデスクトップ用途でのビデオ伝送ツールを求めているのだろうか。それは何だろうか。一般的な言葉を使えば、「組み込みシステム」ということになる。Qualcommはモバイルから、どのような組み込みシステムへの拡大を想定しているのだろうか。

(2014/03/04)

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