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相補的な製品の関係の企業買収なら、どちらもハッピー

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John Spignese氏、米AWR社営業担当バイスプレジデント

2年前にNational Instruments社(NI)に吸収されたAWR社。マイクロ波のCADに強いAWRと、使いやすい設計ツールLabVIEWやパソコン/ソフトウエアベースの計測器を作るNIとの合併は、オーバーラップする製品が全くなく、成功すると思われた。実際はどうか。その結果を聞いた。

米AWR社VPのJohn Spignese氏

米AWR社VPのJohn Spignese氏


Q1(セミコンポータル編集長):AWRは2年前にNational Instrumentsと合併して、どのような成果がありましたか。
A1(AWR社John Spignese氏):この2年間は好調でした。AWRはマイクロ波に強く、NIはデータ収集や設計ツールに強いのですが、AWRのカスタマでもありました。彼らはもっとマイクロ波分野へ進出しようとしていました。だからAWRを買収し、製品ポートフォリオを広げたのです。NIは、ハードウエアではFPGAを使ってGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を改良し、LabVIEWでテストしています。
例えばLTEをシミュレーションでテストする場合、AWRの持つマイクロ波の設計ツールを利用し、システム開発にはNIのLabVIEWを使ってデザインサイクルを短縮できます。これまでのツールは、それぞれ独立でした。事業を統合することで、LabVIEWとVSS(Visual System Simulator)をシェアでき、一つのIPでマイクロ波からシステムまでテストできるようになりました。また、設計とテストのコンシステンシも実現できました。

Q2:AWRのツールのメリットは何ですか?
A2:顧客によると、競合する製品と比べて、AWRのツールを使うとデザインサイクルを半分に減らすことができたそうです。設計時間を短縮できたのは、我々がデータモデルアーキテクチャを統一してきたからです。このモデルベースデザインを利用して共通のプラットフォームを作っているので、ユーザは、物理デザイン(レイアウト)と電磁波解析デザインを同時に設計できるようになりました。他にも、ツール、インターフェースなどを個別に使う必要もありません。回路シミュレータや電磁界シミュレータ、レイアウトデザイン、検証ツール、システムシミュレーション、フロントバックデザインなどすべてプラットフォームに入っているからです。
テストフローを考える場合でも、テストプログラムの開発にどの程度の価値を置くかが難しいのですが、このプラットフォームでは、デザインサイクルを短縮し複雑さを解消しますので、効果があったと思います。ファイルを転送したり、変換したりするためのオーバーヘッドやデータを管理する時間も減りましたので、設計者は本来の自分の設計に集中できます。このプラットフォームはデザインフローやテストも自動で行います。このためオーバーヘッドなどのサイクル時間を短縮できるだけではなく、ミスやエラーを減らすことができ、生産性が上がります。

Q3:何か具体例はありますか?
A3:日本のカスタマである古野電気は、AWRの持つVSSシステムシミュレータ、Microwave Officeと、NIのLabVIEWをリンクさせ、高度なレーダーシステムを開発しました。今までのプラットフォームだけではなく、古野電気と協力してハードウエアとしてFPGAも使いました。このFPGAハードウエアを使った、DSP制御、DSP解析を行うことで、非常に透明なデザインフローが作れたと言っています。彼らは、NIのプラットフォームとFPGAのハードウエアプラットフォームを実際のシステムの中に組み入れました。FPGAはシステムの試作検証に使うことが多かったのですが、古野電気は実際のシステムに組み入れることで性能を上げ、しかもフレキシビリティも上げました。

Q4:NIと一緒になるというメリットはNI側では高周波へとやってきたので理解できましたが、AWR側のメリットは何ですか?
A4:AWRのメリットとしては、カスタマのトータルの生産性向上やデザインサイクルの短縮を実現できることです。AWRのツールは設計だけのように思われがちですが、設計時間を短縮するだけではなく製品の生産性も上げることがカスタマの要望です。我々とNIのツールはトータルソリューションですので、生産性の向上にも寄与します。これによってカスタマに価値をもたらすことができます。
AWRとNIの合併によって、非常にユニークなソリューションを提供できるようになり、カスタマにとっては便利になりました。例えばNIのLabVIEWは便利で、みんなが使っているツールです。高周波に強いAWRと、汎用組み込みシステムのツールと計測に強いNIとのコンビは、非常に相補的な関係が出来ており、オーバーラップする製品は全くありません。両社が一緒になったことで、カスタマをもっと効率よくサポートできますので、ビジネスはますます拡大できるようになります。我々のような相補的な関係のM&Aはこれまでなかったと思います。
両社が統合してAWRとして非常にうれしい点は、もっと多くのカスタマにアクセスできることです。AWRの得意なマイクロ波の市場は狭く、カスタマが限られていますが、NIの持つカスタマは大変広いので、これまでアプローチできなかったカスタマへと広がります。NIはカスタマを紹介してくれました。
今後、さらにシステムシミュレータも期待できます。例えばこれから期待できるワイヤレスビジネスでは、両社のチャンスはさらにひろがっていきます。LTEやLTE-Aなど4Gモバイル技術のIPを両社がシェアしており、システムシミュレータは互換性のあるライブラリを備えています。AWRにとってこれまでにないチャンスになっています。

Q5:日本にはどのようなカスタマがいますか。
A5:もともと、AWRはGaAsのデザインを得意としています。携帯電話機の設計に強く、送信回路のパワーアンプやスイッチ、高度なフィルタなどの集積化の設計に長けています。スマホには、Wi-FiやBluetooth、GSM-EDGE、3G、LTEなど8~10個の無線回路が入っています。電話にはプロトコルをしっかり分離するために優れたフィルタが必要です。デザインと高度なフィルタ技術が求められ、特に非常に深くてシャープな分離ができる超音波フィルタなど、こういった強力なフィルタの設計にAWRのツールが向いています。携帯のシステムにフィルタやデュープレックス、スイッチ、ベースバンドICなども集積する必要があります。高性能だけではなく、もっと効率的に生産するためのパートナーも必要になります。さまざまな受動部品を提供いただけるパートナーも必要です。2013年には20億台のモバイル端末が生産され、各端末には6~7個の無線回路が載るでしょう。2〜3年以内にはさらに2倍の台数に増えると見ています。

Q6:日本ではどのような産業を狙いますか。
A6:日本の業界はとても広いので、狙える市場を自動車やモバイル、民生市場に決めます。自動車市場では、無線回路、通信、センサ、などの成長が期待されます。モバイルや民生市場では、日本はもはや最終製品では強くありません。スマートフォンはサムスンやアップル、華為、HTCなどが強く、日本メーカーは弱いです。しかし、スマホの製造技術や部品、ディスプレイでは非常に強く、こういったところとコラボできる可能性が高いと思います。
製造技術では高周波技術や最先端の技術は日本が得意ですし、またさまざまな部品を組み合わせたモジュールなどの設計・製造スキルも高いです。部品や材料を集積する技術力もあります。それもリファレンスデザインを使って特性を修正し、部品を改良して組み込みます。サムスンなどのスマホメーカーは、村田製作所やTDKなどの製品を使うと共にサービス支援も受けています

Q7:スマホメーカーに日本企業は入り込めますか。
A7:カスタマ(スマホメーカー)は特に日本企業とのコラボレーションが必要で、できるだけリファレンスデザインを使って改良する支援が欲しいと望んでいます。製品サイクルを短縮し生産効率を上げるためです。彼らは3~4カ月に一度、新製品を出すために、デザインサイクルをパートナーベンダーと一緒に短縮したいのです。できるだけ効率を上げることを追求します。加えて、エコシステムの構築が重要なので、一緒に仕事をするベストな部品メーカーを求めています。

(2014/01/15)

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