1-11月累計で前年販売高越え、そこに早々のアップル・ショック
2018年を締める大晦日の日に、恒例の月次世界半導体販売高が米国SIA(Semiconductor Industry Association)から発表され、11月について$41.4 billionで前月比1.1%減、前年同月比9.8%増というデータである。伸びは鈍化しているが28ヶ月連続の前年同月比増、さらに1-11月販売高累計が約$431 billionとなって2017年全体販売高$412.2 billionを越えて、年間史上最高の大幅更新を早々決めている。先行き懸念が云々される中でのこの結果での年明けとなったが、早々のこと、2002年以来ぶりとなるAppleの販売高予測の下方修正が行われて、世界市場に大きなインパクトを与えている。
≪11月の世界半導体販売高≫
米国SIAからの今回の発表内容である。
☆☆☆↓↓↓↓↓
〇11月のグローバル半導体販売高が前年比9.8%増−2018年1−11月販売高累計が2017年総計を上回る;11月販売高は前月比1.1%減 …12月31日付け SIA/Latest News
半導体製造、設計および研究の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、2018年11月の世界半導体販売高が$41.4 billionに達し、前月の$41.8 billionを1.1%下回り、前年同月の$37.7 billionから9.8%増と発表した。月次販売高の数値はWorld Semiconductor Trade Statistics(WSTS) organizationのまとめであり、3ヶ月移動平均で表わされている。
「グローバル半導体業界は引き続き堅調な販売高の前年比増加を示し、今年1-11月売上げ累計が2017年全部からの年間販売高を上回っているが、ここ数ヶ月幾分伸びが鈍化している。」と、Semiconductor Industry Association(SIA)のpresident & CEO、John Neuffer氏は言う。「すべての主要地域市場にわたって11月販売高が前年比増加し、中国が17%の伸びで目立っている。
12月の販売高が計上されると2018年について二桁%の年間の伸びが見込まれ、2019年についてはさらに控え目な伸びの見通しである。」
次に示すように、地域別では、販売高が前年同月比ですべての地域にわたって堅調に増加している。前月比ではAsia Pacific/All Other, Europe, およびJapanがプラスであるが、AmericasとChinaがマイナスとなっている。
China | 前年同月比 +17.4%/ | 前月比 -2.7% |
Americas | +8.8%/ | -2.2% |
Europe | +5.8%/ | +0.5% |
Japan | +5.6%/ | +0.4% |
Asia Pacific/All Other | +4.4%/ | +1.1% |
【3ヶ月移動平均ベース】
市場地域 | Nov 2017 | Oct 2018 | Nov 2018 | 前年同月比 | 前月比 |
======== | |||||
Americas | 8.77 | 9.75 | 9.54 | 8.8 | -2.2 |
Europe | 3.42 | 3.61 | 3.62 | 5.8 | 0.5 |
Japan | 3.21 | 3.37 | 3.39 | 5.6 | 0.4 |
China | 11.90 | 14.37 | 13.97 | 17.4 | -2.7 |
Asia Pacific/All Other | 10.39 | 10.72 | 10.84 | 4.4 | 1.1 |
計 | $37.69 B | $41.82 B | $41.37 B | 9.8 % | -1.1 % |
--------------------------------------
市場地域 | 6- 8月平均 | 9-11月平均 | change |
Americas | 8.82 | 9.54 | 8.2 |
Europe | 3.54 | 3.62 | 2.2 |
Japan | 3.39 | 3.39 | 0.1 |
China | 14.14 | 13.97 | -1.2 |
Asia Pacific/All Other | 10.50 | 10.84 | 3.2 |
$40.39 B | $41.37 B | 2.4 % |
--------------------------------------
※11月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
⇒https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2018/12/November-2018-GSR-table-and-graph-.pdf
★★★↑↑↑↑↑
これを受けた業界紙の反応は、タイミングもあって目についた範囲、次の1点である。
◇Chip Sales Slipped Sequentially in November (1月2日付け EE Times)
→11月のグローバル半導体販売高が前年比ではまた増加したが、前月比では9ヶ月ぶり減少となった旨。
2016年後半から盛り返して急激な増勢そして高みを保っている世界半導体販売高の推移が次の通りである。28ヶ月連続の前年同月比増、そして15ヶ月連続した前年同月比20%以上増が7月で途切れて、7月17.4%増、8月14.9%増、9月13.8%増、10月12.7%増、11月9.8%増と高水準ながら下がってきている経過である。鈍化とはいいながら依然最高水準の月次販売高であり、引き続き推移のほどに注目である。以下に示す通り、2018年1-11月販売高累計が約$431 billionとなって、すでに2017年全体販売高$412.2 billionを越えて$400 billion台後半でどこまで年間販売高が史上最高を伸ばすかというところである。
販売高 | 前年同月比 | 前月比 | 販売高累計 | |
(月初SIA発表) | ||||
2016年 7月 | $27.08 B | -2.8 % | 2.6 % | |
2016年 8月 | $28.03 B | 0.5 % | 3.5 % | |
2016年 9月 | $29.43 B | 3.6 % | 4.2 % | |
2016年10月 | $30.45 B | 5.1 % | 3.4 % | |
2016年11月 | $31.03 B | 7.4 % | 2.0 % | |
2016年12月 | $31.01 B | 12.3 % | 0.0 % | $334.2 B |
2017年 1月 | $30.63 B | 13.9 % | -1.2 % | |
2017年 2月 | $30.39 B | 16.5 % | -0.8 % | |
2017年 3月 | $30.88 B | 18.1 % | 1.6 % | |
2017年 4月 | $31.30 B | 20.9 % | 1.3 % | |
2017年 5月 | $31.93 B | 22.6 % | 1.9 % | |
2017年 6月 | $32.64 B | 23.7 % | 2.0 % | |
2017年 7月 | $33.65 B | 24.0 % | 3.1 % | |
2017年 8月 | $34.96 B | 23.9 % | 4.0 % | |
2017年 9月 | $35.95 B | 22.2 % | 2.8 % | |
2017年10月 | $37.09 B | 21.9 % | 3.2 % | |
2017年11月 | $37.69 B | 21.5 % | 1.6 % | |
2017年12月 | $37.99 B | 22.5 % | 0.8 % | $405.1 B |
2018年 1月 | $37.59 B | 22.7 % | -1.0 % | |
2018年 2月 | $36.75 B | 21.0 % | -2.2 % | |
2018年 3月 | $37.02 B | 20.0 % | 0.7 % | |
2018年 4月 | $37.59 B | 20.2 % | 1.4 % | |
2018年 5月 | $38.72 B | 21.0 % | 3.0 % | |
2018年 6月 | $39.31 B | 20.5 % | 1.5 % | |
2018年 7月 | $39.49 B | 17.4 % | 0.4 % | |
2018年 8月 | $40.16 B | 14.9 % | 1.7 % | |
2018年 9月 | $40.91 B | 13.8 % | 2.0 % | |
2018年10月 | $41.81 B | 12.7 % | 1.0 % | |
2018年11月 | $41.37 B | 9.8 % | -1.1 % | $430.72 |
(1-11月) |
市況の関連内容として、米国製造業の景況感指数、そしてDRAMの価格見込みが以下の通りである。米中摩擦の渦中にあり、先行き懸念アイテムの推移にますます目が離せない現時点である。
◇米製造業景況感、5.2ポイント低下、10年ぶり下げ幅 (1月4日付け 日経 電子版)
→米サプライマネジメント協会(ISM)が3日発表した2018年12月の米製造業景況感指数は54.1で、前月から5.2ポイント低下した旨。2016年11月以来2年1カ月ぶりの低水準で、低下幅では2008年10月以来約10年ぶりの大きさ。
ダウ・ジョーンズまとめの市場予測(57.9程度)も大きく下回った旨。中国経済の減速や貿易戦争の激化が米製造業の景況感を押し下げた可能性が高い旨。
◇DRAM prices expected to slide further-Forecast: DRAM pricing continues to slide, capex is reduced (1月3日付け The Taipei Times (Taiwan))
→TrendForce発。DRAMsの価格づけが、季節的な需要の弱まりおよび米中貿易係争から第一四半期に15%、そして第二四半期にさらに10%低下の旨。
2019年の間のDRAM生産向けcapital expenditures(capex)は、価格低下の結果として10%減少、世界で約$18 billionの旨。DRAMeXchangeでは、Samsung Electronicsが2019年に$8 billionを計画、SK Hynixが$5.5 billionそしてMicron Technologyが$3 billionと予測の旨。
◇DRAM capex to fall-DRAM capex is likely to fall by 10% to about $18 billion in 2019, reckons DRAMeXchange, following a sharp downturn in contract pricing in Q4. (1月3日付け Electronics Weekly (UK))
≪市場実態PickUp≫
【アップル・ショック】
先行き懸念要因に事欠かないところに、年明け早々、アップルが四半期業績予測の下方修正を発表、2002年以来ぶりの予測削減、しかも当初予想を5〜10%下回る内容ということで、以下の通り世界に衝撃を与えるとともに波紋が広がってきている。
◇アップル、売上高予想5〜10%下方修正、中国減速で−2018年10〜12月 (1月3日付け 日経 電子版)
→米アップルは2日、2018年10〜12月期の売上高が当初予想よりも5〜10%低い840億ドル(約9兆1600億円)にとどまる見込みだと発表、中国でのスマートフォン「iPhone」の販売が低迷し、ほかの先進国でも新機種への買い替えが予想に達しなかった旨。売上高が前年同期を下回るのは2016年7〜9月期以来、9四半期ぶり。製品が最も売れるホリデーシーズンの業績予想の引き下げは、同社やサプライチェーン全体に大きな影響をもたらす旨。
◇Apple's Dim Outlook Has Wide Implications (1月3日付け EE Times)
→2002年以来ぶりとなるAppleの販売高予測削減は、同社のグローバルサプライヤにより広いインパクトとなる見込み、売上げの45%ほどをAppleに頼るFoxconn, Lumentum, Cirrus LogicおよびSkyworksの各社には最大の痛手となりそうな旨。AppleのCEO、Tim Cook氏はこの弱い見通しについて予想もしない中国における経済低迷のためとしているが、該インパクトは米国、韓国および台湾のelectronics各社に広がる可能性の旨。Cook氏が触れていない根本的な問題の1つは、約10年においてAppleが新しいヒット製品を出すに至っていないことである旨。EE Timesがインタビューしたアナリストによると、Appleには息切れの様相がある旨。
◇Apple cuts sales forecast as China sales weaken; iPhone pricing in focus (1月3日付け Reuters)
→Apple社が水曜2日、四半期販売高予測下方修正の珍しい展開ステップ、同社Chief Executive、Tim Cook氏は、中国におけるiPhone売れ行きの鈍化のためとしており、同国の経済が米中貿易関係を巡る不安定性により引きずり下ろされている旨。
◇Apple Cuts Outlook as Chinese Slowdown Hits iPhone Demand-Apple drops sales estimates after demand sinks in China (1月3日付け Bloomberg)
◇アップル業績下振れ、中国で減速、買い替えも進まず (1月3日付け 日経 電子版)
→米アップルが2日に発表した業績見通しの下方修正が、波紋を広げている旨。同社がその理由に挙げたのは、売上高の2割を占める中国を中心にスマートフォンの販売が不振だったこと。米国との貿易摩擦で消費が落ち込んだとしているが、スマホの機能が成熟するなかで定期的に新製品を投入して買い替えを促す同社の戦略も曲がり角を迎えている旨。
さらに具体的な市場の反応である。
◇NY株、660ドル安、「アップル経済圏」に売り広がる (1月4日付け 日経 電子版)
→3日の米国株式市場では、ダウ工業株30種平均が反落し、前日比660ドル02セント(2.82%)安の2万2686ドル22セントで終えた旨。米アップルが前日に売上高見通しを引き下げ、中国の景気減速やスマートフォンの需要減退への懸念が高まった旨。電子部品メーカーなど「アップル経済圏」の恩恵を受けてきた銘柄に売りが広がり、相場全体を押し下げた旨。
◇アップル・ショック、アジアに波及、日韓台ハイテク株安 (1月4日付け 日経 電子版)
→米アップルが2日に売上高を下方修正したことがアジア株市場を揺さぶっている旨。中国市場での「iPhone」の販売不振が明らかになり、アップルに部品や部材を供給するアジア企業の業績が下ぶれるとの懸念が広がった旨。日本株市場で村田製作所や太陽誘電などが昨年末比1割以上下落したほか、ハイテク株比率の高い台湾株や韓国株も続落して始まった旨。
【さらにアップル関連】
このような事態の読みもあってか、アップルはインドでのiPhone生産を目指してFoxconnのインド工場での組み立てを始めようとしている。
◇Apple Looks to India to Stem Decline in iPhone Sales (12月31日付け EE Times)
→iPhone出荷が減る予測の渦中、Appleが売上げ再活性化に向けてインドに注目、インド南部のTamil NaduにあるFoxconn工場でhigh end handsetsの組み立てを始める計画の旨。
◇'Made in India' iPhone May Come Soon-Expansion of Foxconn's Tamil Nadu plant on the cards, creating upward of 25000 jobs (1月3日付け EE Times India)
もう1つ、特許係争絡みであるが、QualcommがこんどはドイツでのiPhone販売禁止に向けて動いている。
◇Qualcomm enforces ban to halt some Apple iPhone sales in Germany-Qualcomm enforces German court order banning some iPhones (1月4日付け Reuters)
→Qualcommが、特許係争に伴っていくつかのiPhoneモデルのドイツでの販売を禁止する裁判所命令を実施する対策を施しており、Appleがそれらのモデルをドイツの店舗から引き上げることになりそうな動きの旨。
【米中摩擦関連】
膠着状態の米中摩擦について、年明けの関連2点。米中首脳会談後初となる協議が次のようにもたれようとしている。
◇米中貿易協議、7〜8日に次官級で、首脳会談後で初 (1月4日付け 日経 電子版)
→中国商務省は4日、1月7〜8日に米中の貿易協議を次官級で実施すると発表、米通商代表部(USTR)のゲリッシュ次席代表(Jeffrey Gerrish)らが訪中する旨。2018年12月の米中首脳会談後、米中が貿易問題で直接協議するのは初めて。中国による知的財産侵害、技術移転の強制などを話しあう見通し。
対米摩擦を敬遠して、台湾のUMCが中国への技術協力を大幅に縮小する動きがあらわれてきている。TSMCより先行して合弁活動が見られただけに、今後に引き続き注目するところがある。
◇台湾半導体大手、中国への技術協力縮小、対米摩擦懸念 (1月4日付け 日経 電子版)
→中国の半導体産業育成の目玉事業に対し、台湾大手の聯華電子(UMC)が技術協力を大幅に縮小することが分かった旨。米国が産業スパイの罪で同社と中国側企業を起訴し、同事業への製造装置の輸出も規制したため。中国側では台湾の先進技術への期待が大きく、事業の先行きに暗雲が漂う旨。
米中摩擦の影響は中台間で進行していた実際の事業にも及んだ旨。
【2019年の見通し】
メモリ半導体の価格そして設備投資、および仮想通貨用ASIC、それぞれの本年の展望である。先行き懸念の1つのメモリ価格、そして価格&需要が厳しい環境の仮想通貨関連市場であり、随時見直しを要するところである。
◇2018 review and 2019 outlook: Memory long-term outlook remains bright-Analysis: Memory remains a solid market for suppliers (1月2日付け DIGITIMES)
→メモリ半導体価格が今年下がり続けるとの予測であるが、該市場の長期展望は力強い一方、Samsung ElectronicsおよびSK Hynixは半導体portfoliosの多角化を続けていく旨。韓国両社はファウンドリーofferingsを立ち上げており、自動運転車などの応用に入るartificial intelligence(AI)およびinternet of things(IoT)半導体の需要への適応を図っている旨。
◇2018 review and 2019 outlook: South Korea continues bold investments in memory sector-South Korea doubles down on memory chip tech, production (1月4日付け DIGITIMES)
→Samsung ElectronicsおよびSK Hynixが2019年の間に、DRAMsおよびNANDフラッシュメモリの生産増強への設備投資とともにメモリ半導体R&Dに引き続き実質的な投資を行っていく、とこの分析は特に言及の旨。例えばSamsungは、10-nmプロセスで作られた8-gigabit LPDDR 5 DRAMを披露する一方、130,000枚/月のDRAMsウェーハ生産が可能なPyeongtaek(大韓民国京畿道平沢市)にある同社2つ目のウェーハ製造拠点に$27.7 billionを投資する旨。
◇Supply chain conservative about 2019 mining ASIC outlook-Sources: ASIC suppliers see less demand for cryptomining (1月2日付け DIGITIMES)
→業界筋発。cryptocurrenciesに向けた価格低下が、mining bitcoinなど仮想通貨で用いられるapplication-specific integrated circuits(ASICs)需要を下げている旨。GMO Internet of Japanは先月、cryptominingシステムの販売中止を発表、cryptocurrency-mining事業からの$324.55 millionの赤字を報告の旨。
【Samsung関連】
Samsung Electronicsが、フォルクスワーゲングループに属しているドイツの自動車メーカー、Audiの次世代in-vehicle infotainmentシステムに向けて8-nmプロセッサ、Exynos Auto V9の供給である。
◇Samsung to supply 8-nanometre V9 chips for Audi cars-Samsung Electronics' Auto Exynos V9 has eight A76 cores and will power Audi's next-generation in-vehicle infotainment system.-Samsung provides 8nm chips for Audi infotainment systems (1月3日付け ZDNet)
→Audiの次世代in-vehicle infotainmentシステムは、Samsung Electronics製のExynos Auto V9プロセッサを使用、該Samsung半導体は、8-nmプロセスでの製造、Arm Mali-G76 graphics processing unit(GPU), HiFi 4オーディオdigital signal processor(DSP)およびintelligent neural processing unit(NPU)とともに8個のArm Cortex-A76コアを盛り込んでいる旨。
【インテル関連】
インテルのイスラエル拠点のfab更新について、イスラエル議会が現地採用など条件付きで助成を承認している。同社当面の関門、最先端10-nmへの格上げが含まれている。
◇Israel Approves $185 Million Grant for Intel Fab (1月3日付け EE Times)
→イスラエル議会finance committeeが、Intelに対する$185 million助成を承認、job創出目標および現地契約保証適合への見返りの旨。昨年5月、IntelはKiryat Gat, Israelにある同社Fab 28の22-nmから10-nm生産技術への格上げに2年にわたって$5 billionを充てると発表の旨。イスラエルの助成は、該fabで250人の新規スタッフ採用するとIntelがすでに発表している約束の遵守および現地サプライヤへの約$560 million相当の契約振り向けという条件付きの旨。
≪グローバル雑学王−548≫
近所にもあるヤクルトの販売店。今回は、ヤクルトの開発者で実質的な創業者である医学博士、実業家の代田 稔(しろた みのる)について、
『日本人だけが知らない本当は世界でいちばん人気の国・日本』
(ケント・ギルバート 著:SB新書 443) …2018年8月15日 初版第1刷発行
より庶民にも手の届く先見的「予防医学」を実らせたその人生に迫っていく。戦時中の伝染病に苦しむ実態を目にしてそれまでにない病気にかからないための医学、「予防医学」を追求、「ヤクルト」の元になる乳酸菌、ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株:Lactobacillus casei strain shirota)の発見につながっていく。子供の頃からおばちゃんが届けるヤクルトの馴染み、親しみがあったが、いまや「ヤクルトレディ」のネットワークが展開する一大企業はよく知る通りである。
第一章 匠
―――世界に轟かせた「ひらめき」の妙 …その3
□庶民にも手の届く先見的「予防医学」の果実、「ヤクルト」―――代田 稔
〓最先端の文化が往来する「日本最大の谷」
・天竜川の中流域、東に南アルプス、西に中央アルプスがそそり立つ「日本最大の谷」
→伊那谷と呼ばれる地域
→私は、弁護士の仕事を通して、35年以上も前からこの地域に特別な親しみ
・最近になって2つの理由で、また急速に身近に
→この谷を縫ってのんびり走るJR飯田線は、近年その過疎度を逆手にとって「秘境駅」として話題
→2027年開業予定のリニア中央新幹線の長野県内の中間駅が、伊那谷にある飯田市に決定
・しかし、すでに1世紀も前にこの地域から、世界をリードする先見的な文化の芽が生まれ育っている
→「予防医学」の考え方を自分のライフワークと位置づけ、乳酸菌飲料「ヤクルト」として世の中に還元した医学博士・代田 稔が生まれ育った土地
・この「日本最大の谷」がなぜか最先端の文化が行き来する場所、それが代田の生き方と無関係ではない
〓故郷で芽生え、大学で深まった「予防医学」への青雲の志
・代田は1899年、長野県下伊那郡竜丘村(現在の飯田市竜丘)の紙問屋と養蚕業を営む家の生まれ
→往復2時間かけて徒歩で通った旧制飯田中学(現・飯田高校)で学ぶうち、医学の道を志すように
→旧制第二高等学校(現・東北大学)に進学、さらに研究を進めるため京都帝国大学医学部へ
・このころ日本はすでに戦争への道
→代田はさらに人の命の大切さを思い知らされたよう
→栄養のみならず衛生状態も悪く、伝染病で苦しむ人が数多く
→消化管に棲む微生物の研究へと没頭
・病気にかからないための医学、「予防医学」のイメージができ始めていた
→当時としては非常に新しい考え方
・このころすでに芽生えていた3つの原則
…後に商品化された乳酸菌飲料「ヤクルト」の「代田イズム」
→1.予防医学 …病気にならないための医療
2.健腸長寿 …腸の健康が長生きに
3.誰もが手に入れられる価格 …ハガキ1枚、たばこ1本の値段で健康を
〓現代医学の課題を先取りした着想
・「治療医学」…発病や発症した後に治せるものは治すという対応
→対して「予防医学」
…自分の体の中で病気に負けない、病気を予防する力をつくろうという代田の発想
・予防医学の動きが盛り上がった、1977年の「マクガバン・レポート(McGovern Report)」の発表
→アメリカ上院栄養問題特別委員会(Select Committee on Nutrition and Human Needs United State Senate)(委員長:ジョージ・マクガバン上院議員)が、世界中から学者を集めて行った有名な調査報告
・アメリカの国民1人当たりの医療費は世界一高いのに、平均寿命は26位であるという現実を重視
→アメリカで国家プロジェクトとして調査が始められた
→アメリカ人の食生活の改善や、栄養補助食品の摂取なども提言
・このレポートの影響で、医療効果の一定のデータさえあれば、栄養補助食品や民間療法にまで、医療機会を広げることができるように
→こうしてアメリカではかなり「予防医学」的な動きが医師にも浸透しつつあるが、日本ではこの点に関して遅れている
→保険診療と自由診療を同時に行う「混合診療」はなかなか解禁されず、薬事法自体も旧態依然のまま
→日本の「岩盤規制」の代表例
〓最新の腸理論まで先取りした「健腸長寿」
・「予防医学」に重要な3つの要素
→1.運動すること
2.休養をとること
3.栄養をとること
・私自身は健康分野に関心を持って以来、「腸」が健康の大基本であることを、もっと強調すべきと考えるように
→食物繊維による腸内環境の調整がうまく行われると、全身機能にプラスに働く
→排泄・排毒(デトックス:detoxificationの略語)を、予防医学の4つ目の要素として考える研究者も
→病原菌などと戦う全身の「免疫細胞」のうちの7割が、腸に存在する
・代田イズムの一項、「健腸長寿」は、最新の腸の研究理論を先取りした実践理論
〓「予防医学」の決め手となった「ある発明」
・代田の考え:
…人間の体内には病気の元になる悪玉の細菌がいると同時に、その悪玉を退治して体を守る善玉の細菌もいる
…強いものを探し出して、さらに強化・増産できれば、「予防医学」に役立つに違いない
→善玉細菌である乳酸菌、納豆菌、酪酸金、酵母菌などを、片端から調査
・研究を進めるうち、どうやら乳酸菌が一番いいということを発見
→代田はさらに酸に強く、生きたまま腸まで到達、悪玉菌と戦える乳酸菌を見つけ出した
→1930年、「乳酸菌・シロタ株」(ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株:Lactobacillus casei strain shirota)と呼ばれる「ヤクルト」の元になる乳酸菌が誕生
〓「代田イズム」を体現する販売方式
・代田の構想は、安価でおいしく飲みやすい乳酸菌飲料の開発へと動いた
→1935年、この菌をたっぷり含んだおいしい乳酸菌飲料が完成、「ヤクルト」と命名、販売を開始
…「Yakult」は、エスペラント語でヨーグルトを意味する「Jahurto(ヤフルト)」からとられたネーミング
・新しい乳酸菌飲料ゆえ、販売方法にも工夫が必要
→一人ひとり対面しての説明が必要
→「ヤクルト」独特の伝統になった「宅配」、訪問販売の方式が誕生
・「代田イズム」に、前述の3つのほかに含まれる考え方
→「真心」「人の和」「正直・親切」「普及の心」「宅配の心」
・発売当時の日本は戦時色が濃くなっていて男手が不足
→最初から女性販売員が活躍
→1963年には「婦人販売店システム」を導入、現在の「ヤクルトレディ」の元に
〓時代の要請に応えた成長の軌跡
・腸内細菌学は、戦後次第に注目へ
→善玉菌と悪玉菌のバランスが大事なことがわかってきた
・腸内細菌の7割は日和見菌
→どちらか優勢なほうに加勢する性質
→善玉菌を増やさなければならない
・善玉菌を増やす2種類の考え方
→「プロバイオティクス(probiotics)」…生きた乳酸菌やビフィズス菌などを口から取り入れる方法
→まさに「ヤクルト」
→「プレバイオティクス(prebiotics)」…オリゴ糖などの摂取、善玉菌の餌に
・1955年、東京に株式会社ヤクルト本社が設立
→代田は請われて代表取締役に就任
→1967年にはヤクルト本社内にヤクルト中央研究所
→代田が研究所長に
・ヤクルト本社の業績は伸び続け、2018年3月期の売上高は4000億円を突破
→代田があの緑豊かな伊那谷で描いた健康弱者のために貢献したいという夢は、着実にかなえられたのではないか