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先端プロセス活用し独自開発の半導体でライバルに差をつける時代に日本は?

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Appleが、2020年6月に自社のパソコンであるMac用プロセッサをインテル製チップから独自設計の「Appleシリコン」へ2年かけて移行すると発表した。そして、早くも同年11月には「M1」チップ(トランジスタ数=160億個)を採用したパソコンが続々登場した。そして、今年10月には、M1の性能をはるかにしのぐ「M1 Pro」(トランジスタ数=333億個)と「M1 Max」(同570億個)搭載の高性能パソコンMacBook Proを発表した。いずれもApple社内で独自設計し、台湾TSMCの最先端5nmプロセスで製造されている(図1)。

図1 M1 Maxチップの概要:5nmプロセスを用いて製造したことが明示されている 出典:Apple

図1 M1 Maxチップの概要:5nmプロセスを用いて製造したことが明示されている 出典:Apple


昨年、M1搭載Macが発売されるや、インテルは、自社製チップ搭載PCと比べてMacにできることが限られているとの広告を展開し、M1 Macの欠点をアピールするネガティブキャンペーンを行った。しかし広告に使われたベンチマーク結果が「慎重に細工されている」などの批判を集め、逆効果となってしまった。最近テレビに出演したIntel 新CEOのPat Gelsinger氏は、「Appleは我々よりも優れたチップを自分たちで作れることがわかった。良い仕事(Good Job!)だ」と発言しMacを揶揄していた従来の姿勢から一転して、Appleシリコンの優秀さを認めたようだ。さらに「Intelがすべきことは、彼らよりも優れたチップを作ることだ。私は、彼らのビジネスのこの部分だけでなく、他のビジネス(iPhone向けアプリケーションプロセッサを指すと思われる)も時間をかけて取り戻したい」と語っている。

いよいよ世界は3nmデバイス開発時代へ

米Marvell Technologyは、台TSMCの3nmプロセス技術に基づく新しいシリコンプラットフォームを利用して、業界で最高の電力とパフォーマンスおよび最小面積(PPA)のASICを顧客に提供する準備を始めた。Marvellは、今後TSMC に製造委託する3nmデバイスに独自のIPコアを搭載し、顧客がこのデバイスと実績のあるシリコンコンポーネントを自由に組み合わせて利用して、最も要求の厳しいコストとパフォーマンスを満たすクラウドデータセンター、5G、自動車およびエンタープライズ市場の複雑なシステムをSoCとして構築できるようにするという。

このため、Marvellは、Die to Die Interface IPを活用して、TSMCのCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)実装技術によるマルチチップ方式を採用する。つまり、複数のダイをCoWoS実装技術によってシリコンインターポーザ上で接続するわけである。CoWoS活用に際してTSMCとのMarvellのコラボレーションにより、顧客は最も要求の厳しいクラウドデータセンターアプリケーション向けなど先端システム向けの高性能プロセッサを構築できるようになるという。

TSMCは、予定通り、3nmプロセス「N3」でのリスク生産を2021年中に始め、2022年には量産を開始すると、先日明らかにした。このスケジュールに合わせて、Marvellはすでに複数の先行ユーザーと契約して各社独自のマルチチップASIC構成に向けて協業を始めているという。Marvellの動きに刺激されて、シリコンバレーでも3nmプロセスの活用に舵を切る挑戦的なファブレスが次々と現れるだろう。もたもたしているIntelのファウンドリが立ち上がるのを待ってはいられない。

先端プロセスを使った独自チップ開発が主流に

米Appleや米Intelなど先進半導体企業も、TSMCのN3プロセスによる製造の予約を真っ先に行っている模様である。TSMCも、「すでにN3の製造委託予約をいくつもいただき、初年度のN3の新規テープアウトがN5(5nm)の時よりも多くなることを期待している」と述べている(参考資料1)。

米Googleも自社のスマートフォンPixel 6/6 Proに、先端プロセスを採用した独自開発プロセッサ「Google Tensor」を採用し、性能向上と消費電力低減を図ると発表した。GoogleやAppleなどGAFAはじめ米国ICT企業各社が自社開発半導体を採用して最終製品の差別化を図る動きが顕著になってきている。

日本を除くアジアでも5nmデバイス開発が活発化

一方、韓Samsungは、スマートフォンだけではなく先端の車載チップ設計にも5nmプロセスを適用すると宣言しており、すでに米Teslaと次世代自動車向けの5nmチップを共同開発していると伝えられている。中国では、Huaweiが米国のエンティティリストに載って5nmデバイスのTSMCの製造委託ができなくなってしまったが、米国の規制を受けないAlibabaの子会社であるAlibaba Cloudは、データセンタサーバー向け5nmプロセッサ「Yitian 710」を開発したと10月19日に発表した。

中国では、5nmデバイスは技術的に製造できないはずであるが、どこで製造したか明らかにされていない。中国・台湾半導体業界関係者はTSMCで製造された可能性が高いと見ている。TSMC売り上げに占める中国顧客の売り上げの割合は、1年前の2022年第3四半期の22%から2021年には11%に半減したが、これは米国政府による大口顧客であるHuaweiへの先端半導体デバイスの出荷が禁止されたためで、中国企業への出荷が一律に禁止されてはいない(参考資料2)。エンティティリストに載っていない中国企業への出荷は、原則的に軍事目的が明確な場合を除き禁止されてはいない。

今後、中国でも自国で製造できない最先端プロセス利用のデバイスが続々登場する見込みである。中国国内での半導体製造を強化しようという動きもあるが、米国政府の制裁下で果たして10nm以下を目指す微細化を実現できるのか、それとも微細化は当面あきらめ、他国に頼るのか注目されている。

日本からは、先端プロセスで独自チップ開発・製造が必要という声がほとんど聞こえてこないのは残念である。経産省が日本への誘致に成功したとされるTSMCの前工程ファブで使用する技術レベルは28〜22nmレガシープロセス(TSMC会長によると「マチュアプロセス」)だという。どうも、ソニーやデンソーとの商談で決まったプロセスのようで、日本半導体産業の復権のために、もともと経済産業省が求めていた先端プロセスではない。

同ファブが稼働する2024年といえば、TSMCもSamsungもIntelも2nm製品の生産開始を計画しており、日本の2x-nmとは文字通り桁違いの技術レベルである。車載向けだから28nmで十分との声も聞こえてくるが、そのころ世界各地の減価償却の終わったファブで現行車向け28nm半導体は生産過剰になりそうな雲行きであり、新築レガシーラインで採算が合うのだろうか。Samsungが次世代車向けに車載チップを5nm以降のプロセスで製造する時代に、このままでは、「半導体の失われた30年」はやがて40年になってしまいそうだ。

参考資料
1. 服部毅、「TSMCの2021年第3四半期決算は四半期ベースで過去最高を更新」、マイナビニュースTECH+ (2021/10/18)
2. 服部毅、「製造装置のSMICへの禁輸、車載半導体優先要請できない米商務省のジレンマ」、セミコンポータル (2021/06/02)

Hattori Consulting International代表 服部毅

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