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5nm EUVプロセス:米韓勢は苦戦、日本勢は蚊帳の外、台湾勢は一人勝ちか

Samsung ElectronicsのEUVリソグラフィ(EUVL)専用ラインが5nm EUVプロセスの歩留まり向上に苦労している模様で、顧客の5GモバイルSoCの発売に影響を与えるかもしれないとの消息筋情報を、複数の海外メディアが先月報じた(参考資料1)。2019年にも、Samsungの7nm EUVプロセスの立ち上げがトラブルで遅れているという噂が業界内に広まったことがあった。

一方、ファウンドリビジネスで宿敵の台TSMCはすでにApple iPhone次期モデル用A14プロセッサやHuaweiの次世代旗艦スマートフォン用のKirin 1020チップ(米国商務省の通達で9月に製造受託中止予定)を5nm EUVプロセスで量産していると伝えられている。

Intelは7nmプロセスの歩留まり低迷を公表、外部製造委託か

そんな中で、半導体業界トップ企業である米Intelは、開発中の7nmプロセス(トランジスタ密度の点では他社の5nm相当との見方が有力。脚注1参照)の製造歩留まりが過去1年にわたって低迷したままで量産に移行するめどが立たず、7nm CPU製品の発売計画が遅れて市場投入が2022年末から2023年になる、と7月23日の業績発表の席上、CEOのBob Swan氏が明らかにした。

Swan氏は、7nmプロセスが立ち上がらない場合に備えて、半導体デバイスの生産を他メーカーに委託する「緊急時対応計画」(Contingency Plan)をすでに策定していることも明らかにした。その直後に、海外メディアは、IntelがTSMCと製造委託の交渉をすでに始めているとの業界情報を伝えている。IntelはHPC/AIアクセラレーション向けに最適化されたエクサスケールGPU「Ponte Vecchio(開発コード名)」を2021年に18万枚(300mmウェーハ)TSMCに製造委託の予約済みである、とまことしやかに一部の台湾メディアは伝えた。しかし、TSMCは決して顧客情報を公表しない方針を貫いているので、Intelからの生産受託についてその真偽は不明である。

失望感からインテルの株価急落、期待感からTSMCの株価は急騰

Intelの発表に投資家は素早く反応し、今後への失望感から同社の株価は2割下落し、一方で期待感からTSMCの株価は2割以上も上昇し、明暗がはっきりと分かれた(脚注2参照)。

そんな中、Intelは、同社の技術開発・製造の責任を負うTechnology, Systems Architecture & Client グループ(TSCG)の解体と同グループプレジデントだった同社最高エンジニアリング責任者の8月3日付け退職を発表した(参考資料2)。製造部門と技術開発部門のトップも更迭し、全ての部門はSwan氏に直接報告することにしたが、長年にわたり最高財務責任者としてeBayをはじめ多くの会社を渡り歩いてきたSwan 氏が長期にわたるプロセストラブルを解決できるのだろうか。

SamsungもIntelも共にEUVL導入でトラブルか

Intelは、7nmプロセスからEUVLを生産プロセスとして導入することにしていた。10nm世代まではArF液浸にマルチパターニング技術を組み合わせて微細化を図ってきたが、7nmからはEUVLを導入するため、すでにASMLに最新型のEUV量産機を複数台発注しており、2021〜2022年の量産に間に合わせると見られていた。このため、業界の関係者からは、IntelがSamsung同様にEUVLの生産導入段階でトラブルを抱えているのではないかとの見方を示す声も出ている。

中国勢はどうだろうか。中国最大のファウンドリであるSMICは、EUV露光装置をASMLに発注し、昨年末に納入する予定であったが、米国商務省がオランダ政府に中国へのEUV露光装置の輸出を許可しないように要請しており、入手のメドが立っていない(参考資料3)。米中貿易戦争やハイテク覇権争いはますます激化するばかりで、SMICのEUV露光装置入手は絶望的だろう。

最先端ロジック量産に関して、このままでは先行しEUVLを使いこなしているTSMCの一人勝ちになのではないかと多くの半導体業界や証券業界の関係者は見ている(注3)。あれだけ長期に研究資金を投入してきた日本勢は、EUV露光装置を作ることとも使うこととも無縁な残念な状態に陥っている。

脚注
1. Intel、Samsung、TSMC各社が使うロジックデバイスのx-nmプロセスという表現は、物理的な最小加工寸法を示した厳密なものではなく、各社が独自に付けた呼び名であり、必ずしも数値が小さいから加工寸法が小さく性能が上とは言えないことに注意する必要がある。Intelの10nm製品のトランジスタ密度だけ比べればTSMCの7/6nm製品とほぼ同等との見方が有力ではあるが、配線ピッチは文字通り「一長一短」である。
2. 米NY証券取引所における7月23日の株価とその後7月末までの最安値(Intel)あるいは最高値(TSMC)の比較
3. EUV用フォトレジストやマスクブランクスやマスク欠陥検査機などEUVリソグラフィ周辺分野では日本勢が圧倒的な強みを発揮して海外の先端半導体メーカーを支援している。しかし、韓国政府は米DupontのEUVレジスト量産工場誘致に成功し、SKグループはマスクブランクスの開発を始め、蘭ASMLは台湾企業買収により検査装置も手掛け始めており、日本勢もうかうかとしてはいられない。

参考資料
1. 服部毅:Samsungの5nm EUVプロセスに歩留りトラブル発生か?! マイナビニュース(2020/07/24)
2. 服部毅:Intelのプロセス開発責任者が8月3日付で退社、大規模な組織再編を実施 マイナビニュース (2020/07/28)
3. 服部毅:SMIC、EUV露光装置の入手のめど立たず - プロセスの微細化に遅れ マイナビニュース (2020/07/24)

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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