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エルピーダが会社更生法を適用、DRAMへの固執が成長路線から脱落

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ビッグニュースが飛び込んできた。エルピーダメモリが会社更生法の適用を東京地裁に申請し、受理された。負債総額は2011年3月末時点で4480億円。28日の日本経済新聞において同社代表取締役社長の坂本幸雄氏は27日夕方都内で開かれた記者会見の席上、自力再建を断念した理由について「(提携交渉先から)今日までに様々な提案が来ることになっていたが、具体的な案が来なかった」と説明している。

このニュースを聞いたのはMobile World Congressが始まる日の朝に流れた日経のWebニュースだった。半導体産業に30年以上従事してきた筆者は、長年にわたる親しい友人を失ったような暗澹たる気持ちになった。

坂本氏にはかつてTI時代も含め何度か取材してきたが、傑出した希有な経営者であることには違いない。セミコンポータルでも5年前の2007年8月に取材した。坂本氏は外資系企業を長年、経験してきたため、社員に対して「従業員ファースト」を通してきた。利益率が四半期に10%を超えたら従業員だけに特別ボーナスを支給した。外資系では役員クラスにしか与えないストックオプションを社員全員に与えた。これにより社員のモチベーションは上がった。利益率で計算すると社員に0.65カ月分のボーナスを与えても利益の数%の支出にしかならない。社員のやる気が高まることの方がはるかに大きい。

ただ、今回の会社更生法申請に行きつくのに、これまでの技術の大きな流れ、すなわちメガトレンドを読んでいない、と思われる節がある。というのは、セミコンポータルが何度も指摘してきたようにDRAMだけに固執していると危ない、という不安が的中したからだ。サムスンやマイクロンはNANDフラッシュも製品ポートフォリオに採り入れ、サムスンはさらにアップル向けのロジックファウンドリへ軸足を移し、マイクロンはCMOSイメージセンサにも力を入れていた。DRAMだけでは成長できないと考えていたからだ。

DRAMはメモリ容量が足りなくて話にならなかったメインフレーム時代から、そこそこメモリがあればいいパソコン時代へと変わり、さらに32ビットシステムでは4Gバイトがアドレッシングできる最大のメモリ、へと変わってきた。すなわちメモリの大容量化はそれほど必要としなくなったのである。64ビットシステムなら、4G~16Gバイトといった、ある程度の容量までは欲しいが、組み込み系の32ビットシステムでは大容量化は全く要らない。無駄なのである。WSTSが昨年11月に予測した今年のDRAM市場は昨年に続きマイナス成長である。

大きなメガトレンドはパソコンからスマートフォンやタブレットなど32ビット系の携帯組込機器の時代へと流れている。64ビットシステムはますます需要が少なくなる。つまりDRAMの需要はどう頑張ってもそれほど伸びないのである。DRAMを多数使う、64ビットあるいは128ビットのスーパーコンピュータやメインフレームは極めて特殊な小さな市場にすぎない。サーバでさえも仮想化技術を多用することでサーバの台数はそれほど要らない。だからDRAMに固執しては危ない。大きな市場は飽和気味のパソコンしかないからだ。

サムスンはもはやDRAMビジネスに大きな投資をしない。今年の投資計画ではテキサス州のオースチンにアップルのアプリケーションプロセッサA4やA5、あるいは次世代のAシリーズのファウンドリ生産を増強する。メモリでもNANDフラッシュだけには投資する。フラッシュは32ビットアドレス空間に関係なくストレージとして使える。ストレージメモリは長期的にはまだいくらあっても足りない状況だ。スマホやタブレットにはストレージとしての用途は大きい。ビデオのストレージはHDから2倍HD、4倍HD、8倍HDと高解像度化が限りなく続いている。フラッシュの用途には、キャッシュSSD、カメラのSSDなど大容量であればあるほどありがたい用途が多い。クラウド利用にストレージを使うこともあるが、クラウドはむしろ特殊なアプリケーションを使う応用が多いと言われている。フラッシュの成長はまだまだ続く。

今後、会社更生法が適用されることになってもエルピーダがこれまで同様、DRAMに固執するのなら、今度は本当に倒産してしまう。エルピーダを救えるのはやはり坂本氏しかいないが、大きなメガトレンドを読み、企業を成長する方向へ導いてほしい。セミコンポータルはメガトレンドを読むための情報提供をこれからも続けていく。セミコンポータルを購読するかどうかは企業の選択の自由だが、メガトレンドに沿って成長するという戦略こそ、海外企業の元気の源泉であることを付け加えておく。

(2012/02/28)

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